料理について考えるのは、本当に楽しい
フランスに昔からある血のソースの鴨料理。だが、宮城県の熟練猟師から届いた極上の鴨を前に、「もっと鴨を生かせるソースはないか」と谷昇氏は考えた。そこで、鴨の骨や内臓、血という材料はそのままに、ベースを作ってから血を加えるところを、最初からすべてを入れる手順に変えた。
すると、血のたんぱく質がアクを吸ってきれいに澄み、エッセンスである鉄分の風味が強いソースができた。こうした革命が日々起きているのが「ル・マンジュ・トゥー」の厨房だ。
「見た目はわかりにくいですし、あえて説明はしません。求めているのは、染み入るようなおいしさ。それを考えていると、一日がすぐ終わります」
66歳の今も、週に5日は店に泊まり込む仕事人間。だが料理人を目指したきっかけは、元軍人の厳格な父親に進路を問われ、思いつきで口走った「料理人になりたい」の一言だった。
服部学園で学びながら、恩師の紹介を通して、当時はまだ少なかった在日フランス人シェフのアンドレ・パッション氏の店で修業を積んだ。24歳で渡仏するが、勤務先でケンカをして飛び出した。