仕込みされた料理は格好いい

ミシュランガイド東京で12年連続二つ星を獲得する名店を率いる谷昇氏。オープンから24年を経て、今、熱中しているのが、クラシックをシンプルに再構築した引き算の料理だ。飾らず、奇をてらうことなく、なおかつ圧倒的な存在感を放つ料理は、まさに熟練の極みといえるだろう。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

ミシュランガイド東京で12年連続二つ星を獲得する名店を率いる谷昇氏。オープンから24年を経て、今、熱中しているのが、クラシックをシンプルに再構築した引き算の料理だ。飾らず、奇をてらうことなく、なおかつ圧倒的な存在感を放つ料理は、まさに熟練の極みといえるだろう。

クラシック料理をシンプルに

今のテーマは「クラシックな料理をもっとシンプルに変えられないか」ということです。伝統的なフランス料理を分解して、本質的なところだけをピックアップして、よりシンプルな形にしたい。そうすることで、材料を替えなくても、すごく新しいものができるのです。

その意味で、クラシックなフランス料理には、まだまだ追求すべき隙間がたくさんあります。反対に、それをやらずして、次にいってしまっていいのか、という疑念が強いです。

最近のフランス料理はきれいです。でも正直、きれいなだけでは格好いいと思えない。僕が思うフランス料理は、仕込みがすべて。そして、きちんと仕込みされた料理は格好いいのです。

やればやるほど、昔の人はすごいな、と思います。もうあと数年で70歳ですから、終わりが見えてきて、余計にそう感じるのかもしれません。

昔からあるものを、もうこれ以上何も取り去れないというところまで引き算して、シンプルに。考えたことと、料理がピタッと一致した時が何より楽しいですね。それを実現するために、今も24時間、常に料理のことを考えています。毎日、店に泊まり込んで仕事して、いい年してバカだな、とも思うのですが、考えだすと楽しくてやめられないんです(笑)。

若手料理人たちとの交流が糧に

僕は、自分の感性だけで勝負ができるほどの才能はない人間です。だからこそ、若い世代とも積極的に交流を持って、彼らの感覚や意見を聞くことも大切にしています。店のスタッフとも「この料理、どう思う」なんて言いながら、気軽に料理談議をするのが好きですね。

フランス料理はもちろん、日本料理や中国料理など、ジャンルを超えて幅広い世代の人たちと仲良くしてもらっています。皆さん、うちの店に食べに来てくれて、僕のほうからはスタッフを連れて楽しく食べに行かせてもらったりしていますね。

年齢や経験年数で人を見ることはしません。人が抜けないものをカサに着るのは汚いでしょ。そんなことをしていたら、誰も何も言えなくなります。こういう姿勢は、師匠のアンドレ・パッションさんに学びましたね。彼はフランスのリベラルな雰囲気そのままの人で、威張ることを一切しない。パッションさんとは年齢はそれほど変わらないのですが、今でも会うと髪をクシャクシャにされて「僕の息子」と呼ばれますよ。うちでは厨房でも、若手に自由にやってもらいます。

でも、最終責任だけは僕が取りたいので、ガス台の前とソースだけは譲りません。うちのような小さな店は、若手に伸びてもらって、人間力で維持していかないとな、と思っています。

愛読しているのは佐藤優さんの本

人は食べないと生きていけません。だからこそ、ジャンルを超えてあらゆるものを取り込めるのが料理だと思っていて、それが僕のプライドかな。昔はダイビングやクルマが好きだったのですが、今は全部やめてしまって、気がついたらすごい仕事人間になっていましたね。今は本を読むくらいですが、それも料理につなげるためです。

ル・マンジュ・トゥー 谷昇氏の愛読書

お気に入りは、佐藤優さんの本です。元外交官で、インテリジェンスについてよく語られています。それって、レストラン経営にもすごく大切なことだと思うのです。店自体は資金さえあれば誰でもできますが、それを維持していくには、いろんな人と交流を持って情報を集めたり、危機管理能力を高めたりすることが欠かせません。

たいてい店が終わってから朝方までは仕込みをして、その後、寝る前に1時間くらい本を読むのが日課です。佐藤さんの本は面白いのでほとんど徹夜で読んじゃいますね。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。