医食同源のイタリアン

美食と健康をテーマにしたアーティスティックな料理で、“モダン・キュイジーヌの革命児”と呼ばれるハインツ・ベック氏。その名を冠した唯一の店が東京・丸の内にある「ハインツ ベック」だ。ハインツ・ベック氏の薫陶を受け、右腕として今年から店を任されているのが、エグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏である。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

美食と健康をテーマにしたアーティスティックな料理で、“モダン・キュイジーヌの革命児”と呼ばれるハインツ・ベック氏。その名を冠した唯一の店が東京・丸の内にある「ハインツ ベック」だ。ハインツ・ベック氏の薫陶を受け、右腕として今年から店を任されているのが、エグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏である。

ハインツ ベック。メインの仔羊のロースト
メインの仔羊のロースト。付け合わせはからし菜やビーツ、大根の葉。フランボワーズやブルーベリー、カシスなど森のベリーのフレッシュなソースや、アーモンドのピューレ、リコリスのクランブルを添えて。

2人が生み出すイノベーティブ・イタリアン

遠心分離機やフリーズドライ。美食と健康を追い求めるハインツ ベックの料理には、常に実験的な手法や食材が用いられる。「それでも科学的になりすぎず、最終的にはとてもシンプルで美しい表現になる。それが、ハインツ・ベックの尊敬できるところ」とエグゼクティブシェフのカルミネ・アマランテ氏は言う。

イタリアでもウニは使うが、日本のウニのほうが旨みが強い。だからこそ、北海道産のウニを使った前菜では、ウニの甘みを引き立てる、リンゴの酸味やクルミの甘みを組み合わせた。

ウニの下には真空調理したリンゴと、コリコリとした根セロリ、上には生のリンゴと根セロリを添えて。さまざまな味や食感を味わいながら、ウニの甘みを堪能できる。

ハインツ ベック。ウニの甘みを真空調理したリンゴやクルミクリームで引き立てた前菜
ウニの甘みを真空調理したリンゴやクルミクリームで引き立てた前菜。「日本の食材は味に強さと柔らかさがあり、ハインツ・ベックの哲学と親和性が高い」とアマランテ氏。

メインの仔羊のローストでは、真空調理して火を入れた仔羊に、羊の骨から取ったソースを絡め、自ら炒ったアーモンドをつけて。アーモンドやリコリスで羊の臭いを調和し、赤いベリー類をミキサーにかけただけのソースで軽やかに仕上げた。

「ハインツ では、食材の組み合わせやバランスを大切にしています。それは13品ほどからなるコースも同じ。一皿ひと皿は軽やかでも、最後まで味わった時、深い満足が得られるのです」

アマランテ氏はまだ28歳。だが14歳で調理師学校に入り、17歳から数々の星つきレストランで修業を積み、4年前からハインツ・ベック氏のもとで薫陶を受ける気鋭のシェフだ。
丸の内店に来る前、ジョエル・ロブション氏のモナコのレストラン「オデッセイ」の夏季限定ハインツ メニューシーズンへスーシェフとして派遣され、料理を任されたのがアマランテ氏だった。

「ハインツのスペシャリテを提供しつつ、季節のメニューは日本の食材を生かしたものを私が考案し、シェフに見てもらっています。唯一、シェフから言われているのは、常に思考を止めず、どうしたらよりよくなるかを考えることのみです」

ハインツ・ベック氏と、その右腕であるアマランテ氏が生み出すイノベーティブ・イタリアン。そこには日本の食材を始め生産者や文化、そして人そのものへの敬意と愛情があふれている。

ハインツ ベック カルミネ・アマランテ氏

カルミネ・アマランテ
1990年ナポリ生まれ。調理学校卒業後、イタリア各地と、スペイン、イギリス、アメリカの二つ星、三つ星のレストランで経験を積み、最終的に「ラ・ペルゴラ」でハインツ・ベック氏に師事。2019年から東京「ハインツ ベック」エグゼクティブシェフに就任。

●ハインツ ベック
東京都千代田区丸の内1-1-3
日本生命丸の内ガーデンタワー1F
TEL 050-5594-8476
※ハインツ ベックは、トラットリア クレアッタに店名を変え、M2Fから1Fに移動しました

※『Nile’s NILE』2019年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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