ストイックさとバランスと

12年前、32歳の時にカンテサンスを立ち上げた岸田周三氏。「新時代を作る若手」として話題となり、その後も「時代を牽引する料理人」として注目を集め続ける。しかしそんな熱狂からは一歩距離を置き、冷静かつ圧倒的な集中力で日々料理に向き合う。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

12年前、32歳の時にカンテサンスを立ち上げた岸田周三氏。「新時代を作る若手」として話題となり、その後も「時代を牽引する料理人」として注目を集め続ける。しかしそんな熱狂からは一歩距離を置き、冷静かつ圧倒的な集中力で日々料理に向き合う。

カンテサンス
主役はオリーブオイルと塩。ヤギ乳のババロア、百合根(ゆりね)、マカダミアナッツのスライスという、食感に変化があるものの、いずれも優しい味わいで色も白い要素を合わせる。オイルの香り、塩の歯ごたえが深い印象を残す一品。

進化を続ける

2006年のオープンから12年になるが、変わらぬ鮮度と求心力を保ち続けている「カンテサンス」。

“ミシュランが日本に上陸した2008年度版以来、三つ星を獲り続けている”というと華やかに聞こえる。しかし、中心にいる岸田周三氏は常に冷静で、足が地についている。そして、ストイックに料理を追求する姿勢を緩めることがない。

岸田氏が料理で「最も大切」と掲げている三つの要素がある。
それは素材を意味する「プロデュイ」、火入れの「キュイソン」、味付けの「アセゾネ」だ。この三つは料理全般の基礎で、言うなれば誰が作る料理においても重要な要素ではあるのだが、岸田氏の場合、これらを突き詰める集中力と深度が桁違いなのだ。

食材は厳選し、それぞれの特徴を徹底的に捉え直す。それをもとに、独自性がありながらも奇抜ではない、意外だけれども必然性のある組み合わせを考案する。

一方の火入れは、ごく丁寧に食材の性質や状態に合わせて行う。そして味付けは、塩の強さ、風味のまとわせ方を計算しながら緻密に、こまやかに調整する。

その結果生まれるのが、シンプルであり、かつ圧倒的なオリジナリティーと完成度を備えた料理。強いインパクトを残しながら、食後感がすっきりと軽やかなのも特徴だ。

こんなにも料理に真剣に向き合うのであれば、さぞかし料理一徹なのだろう……と思いきや、意外にもあえて「一徹」になることを避けてきたという。

修業時代は「視野の狭い料理人にはなりたくない」との思いから、経営書や自己啓発本も読んだ。目標から逆算して、確実に前進する習慣も養った。「とにかく前世代とは違う、新世代の料理人に自分はなる」と、固く決意していたと話す。

岸田氏がものすごい熱量を料理に傾けていることは、誰もが認めるところだ。料理がそれを証明している。と同時に、人としてバランスのとれた在り方も忘れない。

その両方があるからこそ、岸田氏とカンテサンスは進化を続け、そして人を引きつけ続けることができる。

カンテサンス 岸田周三氏

岸田周三
1974年愛知県生まれ。フランスではパリ「アストランス」のパスカル・バルボ氏の右腕として働く。帰国翌年の2006年カンテサンスのシェフに。2011年にオーナーシェフとなり、2013年に白金から御殿山に店を移転した。

●カンテサンス
東京都品川区北品川6-7-29
ガーデンシティ品川御殿山1F
TEL 03-6277-0090
www.quintessence.jp

※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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