店を開いて4カ月ほど経った頃、客足がガクンと落ち、平田明珠氏は能登で作る料理と対峙したという。
「最初は能登の食材を使って、今まで学んできたイタリアの郷土料理を作ることにこだわっていました。能登の食材はものすごく良いのに、なかなか遠方からの客足が伸びない。店が暇で時間はたっぷりあったので、RED U.35という若手料理人の大会に出ることにしました。結果、トップ20には入れたものの、上位者とは料理人個人としての差を強く感じました」
「どれだけ良い食材があり、いい生産者がいても、それをただ料理に落とし込むだけでは外から人は呼べない。それからです、能登の豊富な里山・里海の自然の恵みや、独自の食文化、そして自分の料理人としての個性を見つめ直そうと思ったのは」
「実際に能登の食文化を料理に取り入れるには、熟鮓や魚醤などの発酵文化、海女さんが獲る海藻類、市場で流通しない地元のおばあちゃんが山で採ってくる山菜やきのこ、これらはすべて欠かせないものでした」