高知の食材の底力
約8割を占める高知の食材は、知る人ぞ知る強者ぞろいだ。カツオを東の横綱とするなら、土佐あかうしは西の横綱といったところだろうか。赤身とサシのバランスが絶妙で、熟成するほどに増す赤身のうまみとジューシーさを兼ね備えた味わいが魅力である。
肉ではもう一つ、前出のイノシシ肉が秀逸だ。梼原町のジビエ肉加工施設は、捕獲した場所に直接出向き、鮮度の高いまま処理できるジビエカーを有する。その充実した設備と技術の高さがイノシシ肉の質の高さにつながっているのだ。
また清流・仁淀川の天然アメゴがすばらしい。下村氏は成魚をリエットに、稚魚をフリットにし、客の面前で卵をパラパラとはじけさせる演出を加えたアミューズに仕立てた。
題して「三つのアメゴのデクリネゾン」。
卵から稚魚、成魚へと成長するプロセスを表現したユニークな料理だ。ちなみに成魚は「川の宝石」と称されるほど貴重で、卵となると地元民でもそう口にできないそうだ。
ほかにも、黒潮の恵みを受けて大きく育ち身の引き締まった伊勢エビや、ほぼ放し飼い状態の土佐ジローというニワトリが産む濃厚な味わいの有精卵、徳谷地区で栽培される酸味も糖度も高い真っ赤なフルーツトマト、殻がカラフルできれいな長太郎貝(ヒオウギガイ)、多くのこだわりをもって栽培されている甘さとろけるりぐっちょマンゴー、太陽光と潮風の自然の力だけでつくられる完全天日塩・田野屋塩二郎など、個性的な特産品が豊富だ。
どうだろう、「高知と言えばカツオ」なんて理解がいかに薄っぺらいかを思い知ったのではないだろうか。