懐石料理・二十四節気

懐石料理は何よりも「季節」を重視する。桝田兆史さんは、「旬の食材のより繊細なおいしさを見極めながら、2週に1度、コースを組み替える」という。言うなれば、食材を通して「二十四節気」を表現するようなもの。目に美しく、鼻に染み入り、口においしさがとろけるコースの一品一品が、器の醸す季節感と相まって、私たちの心を幸福感で満たしてくれる。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

懐石料理は何よりも「季節」を重視する。桝田兆史さんは、「旬の食材のより繊細なおいしさを見極めながら、2週に1度、コースを組み替える」という。言うなれば、食材を通して「二十四節気」を表現するようなもの。目に美しく、鼻に染み入り、口においしさがとろけるコースの一品一品が、器の醸す季節感と相まって、私たちの心を幸福感で満たしてくれる。

桝田
信楽焼のお釜のふたを開けると、雲丹・帆立・筍があふれんばかり。「季節を存分に楽しんでいただきたい」という思いを込めて、旬の食材を贅沢に盛り込んだご飯が供される。

「もともと独立志向はなかったんです。ただ2年ほど、料理長を務める傍ら、二つの料理教室で講師をやっていまして、これが大きな刺激になりました」

「一つは嫁入り前のお嬢さんに家庭料理を教える教室。探究心旺盛で、おいしい、おいしいとペロリと平らげてくれる。お店は男性客が中心で、料理に対する反応がいまひとつ。ちょっと寂しい思いをしていましたので、彼女たちの反応はうれしかった」

「もう一つは、独立支援センターというところで、脱サラしてこれから飲食業に挑戦しようという素人さん向けの教室です。魚もさばけない、出汁も取れない彼らがやる気だけでどんどん独立していく。もう20年近くプロの料理人をやっているのに独立できない自分は何なのかと、勇気をもらいました」

そんな経緯から店を開いた桝田さんは、当初の目的を「コースの途中で大皿の八寸を出すなど、女性のお客様に喜んでもらえる工夫をして、まず昼を忙しくしよう」「アラカルトではなく懐石のコース料理にして、吉兆時代に『日本料理の花『と教えられたお椀に力を入れよう」という二つに設定した。
と同時に、各料理に今まで以上に季節をふんだんに盛り付け、すばらしい器とともに華のあるおいしさを表現。磨きをかけてきた。

約20年を経た今、桝田さんは7名の弟子たちに惜しみなく技術を伝える。すでに4名ほどが独立したそうだ。「桝田」のDNAが今後どう進化・発展するのかにも注目したい。

桝田
壁には、武者小路千家官休庵宗匠の手による「伯楽一顧」の扁額(へんがく)。名馬を見抜く目を持つ伯楽にまつわる故事による四字熟語だ。
桝田 枡田兆史氏

枡田兆史 ますだ・よしちか
1960年生まれ。「吉兆」での5年の修業を経て、割烹「榎里」へ。ここを15年勤め上げ、「桝田」を開いた。99年5月、39歳のときである。2010年から11年連続でミシュラン二つ星。

●桝田
大阪市中央区心斎橋筋1-3-12
田毎プラザ2F
TEL 06-6251-5077

※『Nile’s NILE』2020年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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