ダイナミックな視点の転換

コロナ禍で、社会も飲食業界も大きな痛手を受けているが、下村浩司氏はこれを機に料理人として向上すべき道を選択した。国内の地方のあちこちに足を運び、今まであまり目を向けてこなかった郷土の食文化から大きな刺激を受けた。また、コロナ禍をきっかけに始めたECサイト用に考案した料理が、店で提供する料理にも影響を与えているという。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

コロナ禍で、社会も飲食業界も大きな痛手を受けているが、下村浩司氏はこれを機に料理人として向上すべき道を選択した。国内の地方のあちこちに足を運び、今まであまり目を向けてこなかった郷土の食文化から大きな刺激を受けた。また、コロナ禍をきっかけに始めたECサイト用に考案した料理が、店で提供する料理にも影響を与えているという。

エディション・コウジ シモムラ。和牛頰肉の煮込み、蝦夷鮑の柔らか蒸しに、シイタケ、ジャガイモ、トリュフを組み合わせ、うるいを添えた一品
和牛頰肉の煮込み、蝦夷鮑の柔らか蒸しに、シイタケ、ジャガイモ、トリュフを組み合わせ、うるいを添えた一品。ソースは、鮑の肝のソースと、黒ニンニク入りの赤ワインソース。頰肉の煮込みと蒸し鮑の力強い風味、濃厚な旨味のある2種類のソースが調和する。

和牛頰肉の煮込み

一方の和牛頰肉の煮込みは、今まで下村氏が深く取り組むことがなかった煮込み料理を発展させたもの。

「自分はモダンなフランス料理を目指しているので、なかなか煮込みを作る機会がなくて。フランス料理における煮込みは、どうしても郷土料理、ビストロ料理の範疇(はんちゅう)。ガストロノミーレストランで取り組むのは難しいと思っていたのです」

しかし、コロナ禍の間に立ち上げたECサイトでは、煮込み料理をラインアップに加えた。

「真空パックごとお湯で温めれば、ご家庭でも手軽に楽しんでいただけますからね」

その際、改めて煮込み料理に真剣に取り組んだところ、下処理を含める各工程を適切に行うことで、満足できる完成度のものができ上がった。それで、これならば店でも煮込み料理を提供できるのでは、と考案したのが今回の一皿である。

ここで組み合わせている牛頰肉の煮込みと蒸し鮑は、どちらも一皿の主役を張るほどの力強い個性ある料理だ。そんな二つをつなぐのが、柔らかくてほどよい弾力がある、という共通した食感。

さらに、ソースは鮑の肝のソースと、黒ニンニク入りの赤ワインソースの2種を添えているが、これらもそれぞれに個性的でありながら相性がよい。

特に赤ワインのソースでは、黒ニンニクの旨みと風味が印象的。この、やや異色の、しかし風味に厚みのあるソースが、もう一方の肝のソースとよく合う。また、中に盛り付けてあるシイタケ、ジャガイモも、力強い要素の緩衝材の役割を果たし、全体のバランスを整える。

「ちなみに黒ニンニクは免疫力をアップする働きのある食材。コロナに勝つために、というメッセージを込めています」

なお、この料理のビジュアルは、通常の下村氏の料理とは異なる印象だ。

「いつもは洗練されたデザインや、美しい彩りを意識します。でもこの料理は、あえて荒々しい見た目に。お客さまからは『シェフもこういう料理作るんですね』なんて驚かれるんですが、いちばん予想外なのは自分自身です」

コロナを機に「エディション・コウジ シモムラ」でもさまざまな変化があった。
しかし「できないこと」よりも「今だからできること」に注力すると、変化はポジティブなものとなる。そんな典型例を、下村氏の料理は見せてくれている。

エディション・コウジ シモムラ 下村浩司氏

下村浩司 しもむら・こうじ
1967年、茨城県生まれ。辻調理師専門学校卒業後、都内フランス料理店で修業を始め、 90年に渡仏。「ラ・コート・ドール」「トロワグロ」「ギィ・サヴォワ」などで8年間修業を重ね、 98年に帰国。六本木「ザ・ジョージアンクラブ」を経て、2001年に乃木坂の「レストラン・フウ」のシェフに就任する。07年に独立し、08年には『ミシュランガイド東京』で二つ星を獲得。

●エディション・コウジ シモムラ
東京都港区六本木3-1-1
六本木ティーキューブ1F
TEL 03-5549-4562
www.koji-shimomura.jp

※『Nile’s NILE』2021年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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