川田智也
茶禅華
自分は1982年生まれなので、昭和の記憶といったら小学校前になります。覚えている味といえば、地元の栃木県足利にあった四川料理店に親が連れて行ってくれた時の味。衝撃的においしく、中国料理を目指した原体験はここにあります。幼稚園の卒園アルバムに、フライパンを振っている自分の絵を描いているくらいです。
平成時代で一番記憶に残っている料理といえば、修業先の「龍吟」の鱧(はも)のお椀です。この椀種は、揚げた賀茂なすを鱧で巻いたもの。まず驚いたのが、鱧の皮の処理も骨切りも山本(征治)さんが徹底して開発した独自のものなので、驚くほどなめらか。揚げなすと鱧が完全に一体化して、吸い地も香り豊か。口に入れた時にワッとあふれる素材の風味、力強さ、それでいて緻密で繊細……。その振り幅がすごい。情熱を持って追求すれば、あれほど完成度の高い料理ができるのか、と圧倒されました。
もう一つ、お茶との出合いも私の転機となりました。修業中の一時期、あまりに忙しくて体調を崩してしまったことがあったんです。何を食べてもおいしく感じられない。そんな時、きちんと淹れた中国茶を口にする機会があり、一気に感覚が目覚めて体調を取り戻せた。そんな体験から中国茶にのめり込むようになったのです。中国茶を含めた、中国の食文化の「薬食同源」の在り方は、もっと追求したいですね。加えて、お茶を中心に人が集まって和む……そんな場を作る力がお茶にはあります。まさに「令和」の「和」。人と人を温かくつなげてくれる存在です。
●川田智也
茶禅華
川田智也さんの想う「令和の味」
にじみ出る豊かさを掴む
※『Nile’s NILE』2019年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています