ウマヅラハギの真っ白い身で、肝や揚げた桜エビ、アサツキなどを包んで。中に1匹だけ桜エビを含ませたのは食感と香ばしさを加えたかった。一瞬だけ火を入れた半生のヤリイカや丸ごと揚げたアーティチョークとともに盛り、刻んだ桜エビやアサツキなどとエゴマ油のソースをかけ、長野県の野草を散らしている。
「旬の食材をふんだんに盛り込み、日本は一つの季節でこれだけの味わいが楽しめる豊かな国であることを表現しました。同時に、この先もこういう料理が作れる国であってほしいという願いを込めています」と岸田周三氏。
「実は桜エビは今、漁獲量が減り、漁そのものがほとんど行われなくなっているくらい危機的状況にあるのです。このままいくと、桜エビが絶滅してしまう可能性も十分にあります」
桜エビはまだ資源管理されているが、他の海洋資源の多くはルールのない、「獲(と)り放題」の状態だと岸田氏は続ける。もちろん水温上昇など地球環境の変化も、海洋資源の減少に大きな影響を及ぼしているが、昭和の後半から平成を通しての、“乱獲”により、鮪だけでなくどの魚介類も急減しているというのだ。
奇をてらうよりも、「とにかくおいしいこと」を追求する岸田氏にとって、食材は命だ。だからこそ毎月、文化庁に赴いて規制作りの必要性を訴え続け、志を同じくする料理人集団「シェフス・フォー・ザ・ブルー」での活動に励み「令和という時代で海洋資源をV字回復させたい」と力を込める。