鳥取銘酒の代表選手「日置桜(ひおきざくら)」を醸す山根酒造場は、田に囲まれたのどかな地にある。
「造り酒屋は町の中心や街道沿いなど人が集まるところに多いのですが、この環境は異例です。しかし、近くに因州和紙の産地があるほどの水が豊かで、農村に囲まれているので米が調達しやすいというメリットもあります」と、蔵元の山根正紀さん。大学で酒造りの講師も務めるほどの研究肌の蔵元だ。県内の酒米で長年、生産が中断されていた強力を復興させた立役者でもある。県内でも一目置かれる造り手だ。
昔は質より量の酒造りをしていたが、5代目を継いだ山根さんが「もっとシンプルなモノづくりを」と舵を切った。
すなわち「醸は農なり」。
酒は原料の米によるところが大きいことを、ある農家との出会いで知った。そのつややかな美しい米を見た時、単一農家の米だけで酒を仕込む「シングル醸造」をしようと思い立ったのだ。
「こんなに違うのか」。できた酒は、山根さんの心を震わせた。
「農家さんと直接お話しすることで、農薬や余分な肥料を減らすことなどを細かくお願いできます。毎年一度、農家さんを招いてお披露目会をするのですが、実際に自分の米で造られた酒を味わうことで彼らの思いも変わります。そうすると農家さんにファンがつき、より張り合いが出ますよね」と山根さん。
「ワインにおける葡萄は樹木なのでテロワールが強く影響しますが、稲は一年草なので、人の向き合い方が如実に表れます。醸は農であり、人なのです」
●山根酒造場
hiokizakura.jp
※『Nile’s NILE』2019年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています
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醸は農なり日置桜
燗してなおよくなる辨天娘