鳥取の夏を代表する魚介といえば、白イカ(ケンサキイカ)だ。6月から11月の日本海では、漁火をともしながら、白イカを釣る。
近年、赤碕町漁業協同組合では若手の漁師らを中心に、白イカのブランド化を進めてきた。そのリーダー的存在であるのが、「海誠丸」の小掠誠さんだ。まだ31歳ながら漁師としての確たるプライドを持って取り組んでいる。
「僕は釣り好きが高じて漁師になりました。とにかく魚が好きだし、赤碕の旨い魚介を大勢の人に、おいしい状態で食べてほしい一心で、白イカを釣り上げてすぐに、船上で神経締めと墨抜き、そして血抜きを徹底してやっています」
鳥取で白イカと呼ぶのは、ケンサキイカのこと。ヤリイカ、アオリイカと並ぶ高級イカではあるが、山陰と九州北部が産地となっている。だからこそ、小掠さんは他の地域との差別化を図るための取り組みとして、“神経締め”と“墨抜き”の両方をやることを模索し始めたという。
「釣り上げた瞬間に神経締めをしなければならないので、手間はかかるし、漁獲量が減るというデメリットはあります。いろいろと試して、医療用の道具を活用して、今では手早く、神経締めをして、墨を抜き、さらに流水で血抜きまですることを徹底しています。
それとイカは真水が大敵。雨が一滴当たったくらいでイカの繊維が壊れてしまう。雨の日は、海水をためたいけすの中で、丁寧に処理をするんです」話す小掠さんの横顔からは、白イカに対する愛情と本物の漁師のプライドを感じた。
鳥取の白イカは、新鮮なものほど身が厚く、もっちりとしていて、甘みと旨みが強い。この新鮮な状態が神経締めと墨抜きの処理をすることで、1週間程度同じ“鮮度”で味わえるという。
赤碕町漁協で前日に小掠さんが釣り上げ、冷蔵庫に1日入れてあった2日目の白イカを神田さんと鳥取の料理人とともに試食。白イカの皮をはぐと、その身が現れる。
「透明感があって、きれい! 普通1日以上経っていたら、身はゆでたみたいに真っ白い状態なのに、神経締めしたイカは、釣ったばかりのようにまだまだ透明だし、イカの筋肉組織が壊れていないから食感がもっちりしている。ものすごく甘みもありますね。それに墨抜きもしっかりされているから、さばく時に水を使わずに済むのもいい。小掠さんが精度の高い処理をしているから、こんなにもおいしいんでしょうね」
神田さんは感心しきりだった。