大きなスイカにググッと両刃の包丁を入れて、見事に真っ二つに切って一言、「僕、スイカ、大好きなんですよ。普通の片刃の包丁だと、自分では切っているつもりでも、先割れするんですよね。だから今日は、巻き寿司を切る時の包丁を使いました」と相好を崩す。
スイカと聞いて、神田氏がすぐに思い浮かべるのは一枚のモノクロの写真。2歳くらいの神田少年が庭で素っ裸になって、スイカにかぶりついている場面を写したものである。
「子供の頃はプールから帰るとよく、大きな盥(たらい)で冷やしたスイカを切り分けて食べました。強烈な思い出ですね。その時の感じを超える料理は、正直、難しいなと思いました」
そんな神田氏が今回の挑戦で大切にしたのは、「スイカをしゃくしゃく食べながら、時々種をペッと出す、あのリズム感と、涼感あふれるシャリッとした歯触り」
自分の記憶と、スイカが象徴する日本の夏の風土に密接に結びついた前菜に仕立てた。
「今まであまり使ってこなかった食材を取り入れる時、“らしさ”を残しつつ“らしくない料理”に仕立てることを考えます。スイカの場合、色で言うと“らしさ”は赤い色ですよね。だからまず、その赤を何色で引き立てようか、というところからイメージを膨らませます。そうして『夏だし、黄色とか黒じゃなくて、白にしよう』と決めて、スイカと食感が合うもので白い食材って何だろう……というふうにイメージを重ねていく。それがかんだの料理の考え方です」