「あさかぜきゅうりは、むかしの京きゅうりの血を受け継いでいるんです。昔はこういう白いきゅうりが関西ではやっていたんですが、秀品率が悪くて曲がりやすいせいで、みんな離れていってしまって。世間ではもうほとんど出回っていませんが、うちでは種を自家採取して栽培を続けています」
あさかぜきゅうりと一般的なきゅうりでは、栽培の仕方も異なる。脇芽を剪定(せんてい)されて、1本1本の茎が整然と柱状に伸びているのが一般的なきゅうり。
一方、あさかぜきゅうりは芽も茎も茂りっぱなしで、苗と苗の間の通路を覆うように弧を描いている。背を丸めて“あさかぜのアーチ”の中に入れば、日差しが緑のカーテンに遮られて涼しい。伸び放題の葉や天井から垂れる実を避けながら、田鶴さんの足取りは軽やかだ。
「あさかぜは、まいた種の3割程度しか発芽しません。それに、同じ芽からできた実なのに、白色と緑色、両方なることもある。味は一緒ですが、出荷先で一般的なきゅうりに間違われることがあるので、難しい品種ですね。収穫できる実がどれだけなるかわからないから、脇芽も切らずに残しておくんです。次にまくための種も採取しないといけないですから」