胡瓜を極める-奥田透 銀座小十

日本料理では、何よりも季節感を大事にする。そんな中、「春を象徴する味が苦みなら、夏を象徴するのは青々とした風味。きゅうりはその代表格です」と奥田透さんは話す。かつ、豊富なミネラルを含む果汁には体を冷やす効果もある。夏を最大限に表現し、夏の体が自然に欲する素材。それが奥田さんの考えるきゅうりだ。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata

日本料理では、何よりも季節感を大事にする。そんな中、「春を象徴する味が苦みなら、夏を象徴するのは青々とした風味。きゅうりはその代表格です」と奥田透さんは話す。かつ、豊富なミネラルを含む果汁には体を冷やす効果もある。夏を最大限に表現し、夏の体が自然に欲する素材。それが奥田さんの考えるきゅうりだ。

銀座小十 奥田透 氏
銀座小十 奥田透 氏。

きゅうりは夏に欠かせない素材でありながら、料理店ではなかなか主役になることはない。しかしながら今回は、そのきゅうりにクローズアップする企画。「正直、苦労しました(笑)。でも結局、きゅうりは無理に主役を張る必要はないんです。それでいて、手法によっては存在感を発揮できます」
こうした考えをベースに、今回のもう一つのお題である「三つの産地のきゅうり」の性質の違いも考慮した料理を披露した。

金沢産 加賀太きゅうり

三つの産地のきゅうりについて、まず加賀太きゅうりを奥田さんは「いわゆるきゅうりとは別物。白瓜の隣にいる」と捉える。確かに実のなめらかさ、きめ細かさは瓜に近い。奥田さんはこの加賀太きゅうりで3品を考案。すなわち、一品は炊いてだしの味を含ませたのち、冷やし仕立てに。
「火を入れた加賀太きゅうりは滋味があり、実においしいのです」

加賀太きゅうりを用いた3種料理の盛り合わせ(銀座小十 奥田透 氏)
金沢
種をくり抜いた加賀太きゅうりに、加賀太きゅうりを用いた3種の料理を盛り合わせた。彩りも美しいきゅうりのボートが水辺に浮かぶような盛り付けは、まさに涼を呼ぶ。3種の料理の右は、酢締めにした鯵の細切りを、昆布塩水に漬けたきゅうりの薄切りで巻いた「砧巻き(きぬたまき)」。中央は、拍子木切りにして昆布締めにしたきゅうりを、鰈の薄切りで巻いた一品。そして左は、加賀太きゅうりをだしで炊き、そのまま冷やしたお浸し。そのだしのゼリーと車海老を合わせた。身が緻密でしなやかな加賀太きゅうりを、三つの表情で表現。加賀太きゅうりの応用力の豊さを感じ、楽しむことができる前菜だ。

そしてもう2品は、生で使用。一つはかつらむきにしてから昆布塩水に漬けたきゅうりで、細切りにした鯵の酢締めを何重にも巻いた。この、芯となる素材を別の素材で巻く「砧巻き」は日本料理の伝統的な技術。「今では使われることが少なくなりましたが、やはりおいしい。復活させてみました」。口の中でハラリとほぐれる薄切りきゅうりの食感は非常に上品だ。

もう一つの使い方は、いわば砧巻きと逆の発想。昆布締めにしたきゅうりを、鰈の薄切りで巻く。パリパリしたきゅうりとソフトな魚、味の入ったきゅうりと素の鰈(かれい)のコントラストが印象的である。

1 2 3
ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。