100年記憶に残る味 前編 より続く
また、小室氏といえば、器へのひとかたならぬこだわりでも知られるが、これは、遠州流の綺麗さびの影響が大きいという。器のために、1室倉庫を借りているほどだが、「見事!」と感じると、また購入してしまう。小室氏にとっての器は、まさにアートなのである。
新店へ移転してもうすぐ4年になるが、数寄屋建築は京都の木島徹(きじまてつ)氏に任せたという。端正かつゆったりとゆとりのある店内は、器同様、料理の味をひと味もふた味も格上げしてくれる。
しかし、こうした芸術への学びは、料理関係に限ったことではない。
「昨日も市川海老蔵さんの『アース&ヒューマン』を観に行ったのですが、素晴らしかったです。これまで、海老蔵さんのことは、歌舞伎のうまい人としか思っていなかったのですが、今回は、人間としてすごいなと、驚かされました。気付けば55になってしまいましたが、60を区切りに、自分の料理を完成させていくためにも、もっと、もっと緊密な時間を過ごさなければいけないなと、つくづく思いました」と振り返る。
また、2021年の春には、反田恭平(そりたきょうへい)氏のコンサートにも足を運んだそう。ショパンコンクール前のことであるから、さすが見る目が高い。感動したのはもちろんのこと、乗っている“旬の人”にはすごい力があるというのを何より感じたという。そうしたパワーやオーラをできる限り吸収すべく、いろいろな舞台を観に行くようにしているのだそう。