100年記憶に残る味 前編

究極の素材を縦横無尽に使いこなした、圧巻の料理をふるまう「懐石 小室」。懐石料理の神髄を受け継ぐ数少ない名店である。

Photo Masahiro Goda  Text Hiroko Komatsu

究極の素材を縦横無尽に使いこなした、圧巻の料理をふるまう「懐石 小室」。懐石料理の神髄を受け継ぐ数少ない名店である。

懐石 小室
季節の美味を少しずつ盛り込んだ前菜。ふた物の中は、いかと芝えびの揚げものなど。手前はかきのオイル漬けとうだま柿。揚げ稲穂の下は春菊のお浸し。奥は平目のからすみあえ。

懐石 小室 小室光博

「懐石 小室」の料理というと、鱧、松茸、鴨、蟹……究極の素材を縦横無尽に使いこなした、圧巻の料理を思いうかべる人が多いのではないか。

まずは、それらの素材へのこだわりをと、主人・小室光博氏に質問すると、やんわりと、しかしきっぱりと「いや、こだわりではありません。私にとっては普通のことなんです。むしろ信念ですね」と制された。

天然のものであれば、しっかりとした生産者が確保し、きちんと命を全うさせたものであるということ。

作られたものであるなら、できる限り正しい飼料で安全に育てられたもの。または、無農薬や極力減農薬で丁寧に育てられた野菜たち。それらを当たり前の基準として使っているのだという。

そうした適正な素材にごく丁寧に向き合い、その旨みを最大限に引き出すことを、日々繰り返す。こうした料理人として必須の資質を、小室氏はどこで培ったのであろうか。それを知るためには、なぜ、料理人を目指したのかを聞かねばなるまい。

「食いしん坊だったんですね、単純に。料理屋さんだったらいつも美味しいものに囲まれていられますから」と笑いながら答えてくれた。実は、高校生のときに兄の店でアルバイトをしたのだそうだ。キラキラした世界にわくわくしたという。この道を究めたいと、高校を卒業してから、調理師学校へ通った。就職面接の段階では、懐石料理店に絞り込み、最終的には、「辻留」出身の主人が営む「和幸」(現在は閉店)にお世話になることになった。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。