ロートレックとその時代

Photo   Text Rie Nakajima
ロートレックとその時代
《ディヴァン・ジャポネ》1893年 80.8×60.8㎝ リトグラフ
日本風の内装をもったキャバレ「ディヴァン・ジャポネ」(意味は「日本の長椅子」)のポスター。中央にダンサーのジャヌ・アヴリル、右側に象徴主義の詩人エドゥアール・デュジャルダン、左奥の舞台上に黒い長手袋が特徴の歌手イヴェット・ギルベールが描かれている。

9世紀末のパリは、芸術と文化の華やかさが極まった時代である。ムーラン・ルージュでは連夜、歌手や踊り子たちが華麗なショーを繰り広げ、自由劇場や象徴主義演劇などがリアリズムと前衛的な芸術を展開し、街は蠱惑(こわく)的なエネルギーに満ちていた。18世紀の産業革命が社会を一変させ、飽和状態にある人々は刹那(せつな)的な美と刺激を求めてデカダンスに浸っていた。そんな時代の寵児となったのが、フランスの画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864~1901年)である。

ロートレックは、南フランスのアルビで伯爵家に生まれた。幼少期に両脚を骨折し、成長が止まる障害を負うが、絵画への情熱はそれを超え、1884年頃からパリのモンマルトルにアトリエを構え活動を開始する。当時のパリはキャバレーや劇場が文化の中心であり、ロートレックはそこに集う芸人や娼婦、歌手たちを描いた。彼の作品は、瞬間的な躍動感を大胆な描線と構図で表現し、パリの文化を象徴するポスターとなって街を彩り、ロートレックの名はまさに一世を風靡(ふうび)したのである。

「フィロス・コレクション ロートレック展」は、彼の紙作品を中心とした個人コレクションとして世界最大級の展示であり、東京・新宿のSOMPO美術館(展示終了)を皮切りに、北海道や長野でも開催される。約240点の作品からは、ロートレックが切り取った世紀末パリの空気感を感じ取ることができる。

彼は歌手イヴェット・ギルベールやヴァリエテ座のスター女優マルセル・ランデールをモデルに数々の作品を手掛けた。ときには彼らを誇張して描くこともあり、その表現は賛否を呼んだが、それこそがロートレックの個性であった。彼の作品の魅力は、ただの肖像画ではなく、その人物が最も輝く瞬間を捉えた点にある。

ロートレックは放埓(ほうらつ)な生活の末、36歳でこの世を去った。その短い生涯で彼が描いたパリの姿は、時代を超えて今なお人々を魅了し続けている。

  • ロートレックとその時代 ロートレックとその時代
    《マルセル・ランデール嬢の胸像》1895年 59.0×41.0㎝ リトグラフ
    ロートレックが魅了され、何度も劇場に足を運んでモデルにしたというヴァリエテ座スター女優のマルセル・ランデールを描いた、「吹き付け」と呼ばれる版画技法を使ったリトグラフ。モデルのランデール嬢は優雅な物腰と波打つ髪、美しい背中の持ち主だったという。
  • ロートレックとその時代 ロートレックとその時代
    《メイ・ベルフォール》1895年 79.5×61.0㎝ リトグラフ
    アイルランド出身の歌手でダンサー、メイ・ベルフォールが「プティ・カジノ」に出演する際に制作されたポスター。フリルのドレスで子どものように歌ったベルフォールだが、その歌詞には性的な内容が含まれ、世紀末の退廃的でエロティックな雰囲気を演出した舞台が人気を博した。
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    《紙吹雪(コンフェッティ)》1894年 82.5×59.0㎝ リトグラフ
    イギリスの製紙会社、J.&E.ベラ社の注文により制作された、婚礼やカーニバルで使われる紙吹雪の宣伝ポスター。三人の手から放たれた紙吹雪をほほえみながら浴びる女性は、ロートレックの友人であり画商のモーリス・ジョワイヤンによると、女優のジャンヌ・グラニエがモデル。
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ロートレックとその時代
《キャバレのアリスティド・ブリュアン(文字のせ前)》1893年 127.3×95.0㎝ リトグラフ

All images courtesy of〝 The FirosCollection〟

フィロス・コレクション
ロートレック展 時をつかむ線

2024年10月12日(土)〜2025年1月5日(日)
●札幌芸術の森美術館
北海道札幌市南区芸術の森2-75
TEL 011-591-0090
artpark.or.jp

2025年1月18日(土)〜4月6日(日)
●松本市美術館
長野県松本市中央4-2-22
TEL 0263-39-7400
matsumoto-artmuse.jp

※『Nile’s NILE』2024年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。