100年を見据える美術館

2019年10月、京都屈指の観光地である嵯峨(さが)嵐山に、新たな私設美術館が登場した。「100年続く美術館」をコンセプトに、円山応挙や伊藤若冲(じゃくちゅう)など京都ゆかりの作品を中心とした華麗なコレクションを披露する。古くから貴族や文化人に愛され、優れた芸術が生み出されてきた嵐山が、日本美術の継承・発展の拠点として再び脚光を浴びている。

Photo Satoru Seki Text Rie Nakajima

2019年10月、京都屈指の観光地である嵯峨(さが)嵐山に、新たな私設美術館が登場した。「100年続く美術館」をコンセプトに、円山応挙や伊藤若冲(じゃくちゅう)など京都ゆかりの作品を中心とした華麗なコレクションを披露する。古くから貴族や文化人に愛され、優れた芸術が生み出されてきた嵐山が、日本美術の継承・発展の拠点として再び脚光を浴びている。

美術館と館長
「100年続けていけるよう、時代に合わせて柔軟に変化していく美術館にしたいと思っています」と、館長の川畑光佐氏。近隣の「嵯峨嵐山文華館」の館長も担っている。

近年、日本美術が注目されている。伊藤若冲が彗星のように現れブームを呼び起こしたことに始まり、円山応挙、上村松園(うえむらしょうえん)など、日本美術の歴史を築いてきた画家の展覧会に、幅広い年代層の人々が列を作るようになった。そんな中、嵯峨嵐山に登場した福田美術館。京都画壇を中心に、約1500点の秀逸なコレクションを持ち、開館記念として開かれた「福美コレクション展」では、初公開の狩野探幽筆「雲龍図」などが披露されて話題を呼んだ。

「最近では、明治から昭和にかけて活躍した木島櫻谷(このしまおうこく)も大変な人気です。コレクション展では、櫻谷の作品で行方不明になっていた『駅路之春(うまやじのはる)』が約80年ぶりに公開されました。独特の構図で色合いが美しく、馬の瞳もかわいいところが、とても気に入っています。個人的に日本美術のリアルな動物の絵が好きなので、竹内栖鳳(せいほう)の『猛虎』などもおすすめですよ」と、館長の川畑光佐氏。

「当館では“100年続く美術館”をコンセプトに、日本美術のファンの方にも、初心者の方にも楽しんでいただける展示を目指しています。コレクションも名だたる作家の作品の中から、大きなもの、美しいものなど、どなたでも感動を覚えていただけるような作品を集めてます」

美術館の外観
京町家の精神を取り入れつつ、今後100年のスタンダードとなるような新しい日本建築を志向した外観。庭には大きな水盤がある。

お客様第一。そのため、企画展会議には川畑館長や学芸員だけでなく、広報や事務のスタッフも全員参加で自由に意見を出し合う。なるべく専門用語を使わない簡潔な解説をつけ、さらに作品の見どころがひと言で伝わるようなキャッチコピーをつけるといった工夫にも余念がない。

「音声ガイドは無料でご利用いただけます。QRコードを読み込んで、ご自身のスマホでお聞きいただけるシステムが好評です。展示スペースが可動式で、作品によっては30㎝の近さで見ていただけるのも特徴です。ガラスも透過性が高いドイツ製のものを取り入れて、日本画を見るのに適した環境を追求しています。写真撮影も基本的にOKなので、思い出として写真を持ち帰ったり、SNSにアップしていただいたりしても構いません」

川畑館長自身は、数年前まで日本美術に関して初心者だった。オーナーであるアイフルの福田吉孝社長の長女であり、証券会社勤務や生け花師範の経歴も持つが、10年間は専業主婦として育児に専念していた。

「ことの始まりは約20年前、会社が上場した際に上場益が出まして、両親ともに『このような利益は、社会に貢献するために使うべきだ』と考えたそうです。父は京都生まれで、京都で起業しましたので、それなら京都の方に恩返しができることをしようということになりました。そんな折、嵐山のこの地にご縁をいただき、同じタイミングで美術品を120点ほど譲りたいというお話があり、それならここで美術館をやろうということになりました。本格的に収集を始めたのはそれからです。私も両親の思いに共感し、学芸員の資格を取るなど勉強を始めました」

美術館の展示室
「蔵」をイメージした展示室。92%という高透過率を誇る継ぎ目の少ない大きなガラスや、30㎝~100㎝までの可動式の展示ケースを採用したことで、高精細映像のようにクリアに画家たちの筆致を間近で見ることができる。

嵐山なら観光客も多い。ならば、と京都画壇を中心に集め始めたところ、縁が縁を呼び、その師匠や弟子の作品へと広がりを持ち、近世から近代に至る美術史をたどるような充実したコレクションとなった。

「日本美術は敷居が高いと思われる方もいますし、美術館の運営というものは難しいと言われています。しかし当美術館では、一過性ではなく末永く地域や文化に貢献できるよう、日本美術や日本文化を若い方たちにも広く伝え、継承していくように努力していく所存です」

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    上村松園 「姉妹之図」
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    上村松園 「初雪」
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    上村松園 「美人観月」
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    上村松園 「静御前」
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常設展はなく、年4回の企画展を開催。それぞれ100点程度を展示し、福田コレクションの作品を中心に構成する。2020年3月8日までは、開館記念の第2弾として「美人のすべて」展を開催した。

顔の造形だけでなく、ふとした表情やたたずまい、全身から醸し出される雰囲気によって女性の美を表現した美人画の名手、上村松園は、京都の葉茶屋に生まれ育った女性画家である。明治から昭和という、女性が画家として生きることが困難だった時代に独自の世界観を持つ美人画で道を切り開き、女性初の文化勲章を受章した。今回の「美人のすべて」展の見どころは、一見、松園とは思えないような異彩を放つ作品、初公開となる「雪女」。松園を始めとする東西の画家が追い求めた、理想の「美」の世界を堪能できる展覧会だ。

ミュージアムショップでは、館長が京都産のものやメーカーにこだわったという、コラボレーショングッズなども楽しみにしてほしい。

●福田美術館 TEL075-863-0606 

※『Nile’s NILE』2020年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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