生い立ち
福岡県で植物園を営む家庭で生まれ育った矢野さんは、小学1年の時にはすでに父に弟子入りし、中学生の時には「人間と自然の間に立つ仕事に就く」と決意した。その志のまま東京都立大学に進学し、自然地理学を専攻する。
自然地理学で扱うのは動植物の生態、そのベースにある地形や風土、気象など幅広い。自然を総合的に学びたかった矢野さんにとって、最適な選択だ。
「でも、授業が全然頭に入ってこない。なぜなら自然の現場を知らないから。それで“日本全国の自然と地理を体感してこよう!”と1年間休学し、リュックを背負い、徒歩と自転車で全国を縦断したのです」
自転車を走らせ、夜は山中や海辺で野宿。そんな生活の中で、地形や気候に基づく自然の循環が地域ごとにあると実感できた。
「それが各地の風土を作り、土地に根ざした人々の生活と、“業(さまざまな仕事)”につながる。地域振興も自然に沿うのが大事。そうすればおのずと発展します」。この1年間は、矢野さんにとって圧倒的な体感だった。
「風土と人、また動物と自然との関係を実感できたことが私のベースになりました」
その後造園業に就き、特に弱った樹木の再生を手掛けるうちに、かつて大自然の中でつかんだ循環の視点を、個別の木に適用することがポイントだと気づいた。
「空気と土は循環しています。地上と地下で、空気と水はつながっている。その間を取り持つのが樹木です」