「ヨルダン川西岸をゆく 中編」から続く
エルサレムからベツレヘムへ
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、それぞれが歴史に刻まれてきたエサレム。東エルサレムに位置する1㎞四方の壁に囲まれた旧市街にはユダヤ教の聖地「嘆きの壁」があり、磔刑(たっけい)の判決を受けたイエスが十字架を背負ってゴルゴタへ向かった「ヴィア・ドロローサ」や、イエスの墓があり復活にちなむ「聖墳墓教会」はキリスト教の聖地として、預言者ムハンマドが昇天した「岩のドーム」はイスラム教の聖地として知られる。
東のオリーブ山から見下ろす旧市街は、南東の一画を占める神殿の丘にあって金色のドーム屋根がまばゆい岩のドームに象徴される。預言者ムハンマドが昇天し、神にまみえたと言われる岩の上に建てられた7世紀末のイスラム寺院は、青を基調とする鮮やかなモザイクタイルで覆われた美しい建物で、その南隣にはアルアクサ・モスクがあり、静かに祈る人や、窓明かりでコーランを読む老人がいた。その背後の壁の外側が嘆きの壁で、男女に分かれた大勢の人々が高さおよそ20mの壁に額をつけて祈っている。壁の石の隙間や小さな穴に押し込められた紙には、彼らの願いでも記されているのだろうか。
狭い石畳の坂道は両側に小さな店がせめぎあい、壁に挟まれた道はやがて聖墳墓教会にたどり着く。
ローマ皇帝コンスタンティヌス1世(在位306~337年、330年に都をローマからビザンチンに移し、自らの名前からコンスタンティノープルとした。キリスト教を公認宗教とし最初のキリスト教皇帝となる)の母ヘレナによって4世紀前半に建てられたと言われ、現在は12世紀に十字軍が建設したロマネスク様式の聖堂となっていて、イスラム教徒が管理している。こうしたデリケートな背景を持つエルサレムの旧市街は、世界唯一の当事国を持たないユネスコの世界遺産となっている。