ヨルダン川西岸をゆく 後編

ヨルダン川とイスラエルの間にあり、パレスチナ自治区の一部を成すヨルダン川西岸地区。世界で最も低い土地に1万年前から文明が花開き、欧米列強に翻弄されながらも、たくましく生き続ける人々がいた。

Photo Chiyoshi Sugawara Text Chiyoshi Sugawara

ヨルダン川とイスラエルの間にあり、パレスチナ自治区の一部を成すヨルダン川西岸地区。世界で最も低い土地に1万年前から文明が花開き、欧米列強に翻弄されながらも、たくましく生き続ける人々がいた。

  • フランシスコ派の修道院付属の聖カテリーナ教会の前に立つ聖ヒエロニムスの像 フランシスコ派の修道院付属の聖カテリーナ教会の前に立つ聖ヒエロニムスの像
    降誕教会の北、フランシスコ派の修道院付属の聖カテリーナ教会の前に立つ聖ヒエロニムスの像。ヒエロニムスはここの洞窟にこもって聖書の翻訳を行った。
  • 降誕教会 降誕教会
    降誕教会は外壁の石積みがむき出しで、迷路のような地下には天使ガブリエルによる受胎告知や生誕の風景、星を見て祝福に来た東方の三博士などの絵が掲げられている。
  • 降誕教会の主祭壇 降誕教会の主祭壇
    (左)迷路のような洞窟のミルク・グロットの奥深くにマリアと赤子のイエスの絵。
    (右)非常に質素な外観とは対照的 に過剰なほどに装飾された降誕教会の主祭壇。
  • 地下洞窟ルク・グロット 地下洞窟ルク・グロット
    (左)イエスが生まれた場所の床に銀の星が埋め込まれていた。
    (右)マリアがヘロデ王の兵から逃れた地下洞窟のミルク・グロット。
  • フランシスコ派の修道院付属の聖カテリーナ教会の前に立つ聖ヒエロニムスの像
  • 降誕教会
  • 降誕教会の主祭壇
  • 地下洞窟ルク・グロット

イエス・キリスト生誕の地ベツレヘムはイスラム教徒にとっても神聖な場所だ。ベツレヘムはエルサレムの南10㎞の小高い丘にあり、ダビデの出身地であることから「ダビデの町」とも呼ばれる。

 

ガリラヤのナザレに住んでいたマリアとヨセフは婚約していたが、結婚前に聖霊によって懐妊が告げられる。人口登録のためにヨセフの故郷ベツレヘムに向かった二人は宿が見つからず、すでに出産の日が近づいていたマリアは馬小屋で男の子を産み、飼葉桶に寝かせ、イエスと名づけた。ベツレヘムを訪れたヘレナは、エルサレムの聖墳墓教会と同様、イエスが生まれ、かつて馬小屋だった洞窟を大聖堂の場所に選ぶ。ビザンチン様式の降誕教会は4世紀初めに完成したが529年に破壊され、東ローマ皇帝ユスティニアヌス1世の下で大規模な再建が行われ要塞化された。

  • 市場 市場
    市場には野菜や果物があふれ、買い物客で活気づいている。
  • ヨルダン川西岸をゆく 3 ヨルダン川西岸をゆく 3
    (左)メンジャー広場を抜けパウロ6 世通りに入ると、ジュース売りに出会った。
    (右)広場に面した降誕教会の横では飲み物を売っていた。
  • 観光客も多い 観光客も多い
    (左)観光客も多い通りにはパレスチナ人の街らしさが漂う。
    (右)観光客の多い広場で。パレスチナの警官は武器を所持しない。
  • 市場
  • ヨルダン川西岸をゆく 3
  • 観光客も多い

主祭壇の両側から下る階段が、イエスが生まれた洞窟へと導く。銀色の星がその場所を示し、訪れた人々は競うように星にひざまずいていた。

降誕教会は、2012年にパレスチナ初の世界遺産に登録された。

天使はエジプトに逃げるようヨセフに告げる。イエス生誕の報に不安を抱いたヘロデ王がベツレヘムと周辺の男の子を残さず殺させたからだ。伝説では、ヨセフとマリアがエジプトに向かう前にヘロデ王の兵士から逃れた場所こそ大聖堂の南東に位置するミルク・グロットだとされ、岩の洞窟はマリアの乳が落ちて白くなったと伝えられている。キリスト教徒、そしてイスラム教徒からも尊敬を集める教会だ。

降誕教会が面する町の中心となるメンジャー広場からスークを抜けて進むパウロ6世通りは、店と買い物客や観光客でひしめいていた。

マルサバ修道院
夕暮れ、483年に築かれ、指導者聖サバス(439~532年)にちなんで名づけられた壮観なマルサバ修道院を見上げる。谷間の上を羊の群れが影のように稜線を横切って行った。

ベツレヘムから東へ、荒涼とした岩肌のケデロンの谷に潜む、女人禁制のマルサバ修道院を訪ねる道筋で、峠から東を望むと山越しに死海の湖面がかすかに光り、ヨルダンの山々が遠くかすんで見えた。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。