チューリヒ湖畔で学んだ「本当のこと」

時代を読む 第128回 原田武夫

時代を読む 第128回 原田武夫

端的に言うならば、今回の出張で「これから何が起きるのか、また”起きなければならない“と暗黙裏に考えられているのか」につき理解ができたと強く感じている。とりわけ、中欧地域の小国だが世界中の王族たちの資金を今、預かっていると聞く王国より「殿下」が出席され、ご自身の未来分析を吐露していたのが印象的であった。これら王族のレベルの言葉はインパクトが違う。なぜならばそれは「現状分析」をしているようでいて、実際には「こうする」という意思表明でもあるからだ。質的に他とは異なる発言をしている「殿下」のプレゼンスは圧倒的であった。

AIについてはこの数年の間、修士号を取得し、学会で論文発表までするようになっている筆者だが、そうであるからこそ、かの地で行われている「未来分析」の程度がよく理解できた。これも大きな成果であった。国際決済銀行(BIS)のこの分野での担当リーダーのスイス人女性とじっくり会話し、またラウンドテーブルでは欧州随一の国家の中央銀行において未来シナリオ構築とイノベーションを担当している局長女性の話が聞けた。これら両者はいずれも「AI万歳!」と言うと思いきや、その実逆であり、むしろ「予測(prediction)」に際しては至極真っ当に、現状のAIは仕組み上、限界があることを明言していた。前者には「3カ月以上の予測になると、例えばスイスのGDPがゼロになってはじき出されてくるのだから困ったものだわ」とほほ笑みながら言われたほどである。技術が分かっているからこその当方の理解であり、またこの会話であったとうれしく思った。

10時間以上かけて我が国に戻ると酷暑と変わらぬ雑事が待ち構えていた。次にあの美しい湖畔に戻るのはいつだろうか。そして、我が国は、世界はどうなっているのだろうか。今から楽しみでたまらない。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』2024年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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