7月頭にスイス・チューリヒを訪問した。かの国とシンガポール当局が合同で行った国際会議に出席するためだ。コロナ禍より前にはしばしばこうした会議に出席し、それを通じてグローバル社会で通用するプロフィールづくりに躍起になっていた自分の姿を懐かしく思い出す。そこでの努力が実ってわずかばかりではあるが、グローバル社会における発言権を得、最近では国連大学の研究所で「生成AIと外交」と銘打った共催ウェビナーを開催したりもしている現在の自分と当時とを比べると、隔世の感がある。今回は単なる傍聴者として出席してきた。それの方が気楽だし、自分が一番知りたいことに集中しながら出席することができる。
不思議なもので、部下も連れずに身軽に海外に出ると、どういうわけか、「その瞬間に会うべき方・知るべき話」に出くわすのが常なのだ。いわゆる「シンクロニシティー」というものであろうか、今回もそうであった。気が向くままに会場を渡り歩いていると、何人かの方々と出くわし、会話をする度にそこで「自分が知りたかったこと」をその方々が教えてくださるのを感じた。人生とは実に不可思議なものである。
今回、私が一番知りたかったのは世上語られている最も頻出するテーマの数々がどのようにつながってくるのか、またその結果どのような未来が形成されていくのかであった。「人工知能(artificialintelligence)」はもとより、「デジタル証券化(tokenization)」「量子コンピューティング(quantumcomputing)」「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」、さらには「ブロックチェ―ン(blockchain)」等々である。我が国においてはやれ「貯蓄から投資へ」であるとか、あるいは「生成AIの職場での活用」であるとか、はたまた「日本円の新札」、そして「新NISA」といった事柄ばかりが語られている。しかしどうにもこうにも後追いばかりであるのが明らかなのであって、「本当のところこれからどうなるのか」が全く分からないし、見えてこないのである。だからこそ、「歴史の震源地」であるかの地に出向く必要があると強く感じていた。1年ほど前から目星をつけていたわけであるが、今回、忙しい日常の合間を縫って、チューリヒ湖畔にまで何とかたどり着くことができた。
チューリヒ湖畔で学んだ「本当のこと」
時代を読む 第128回 原田武夫
時代を読む 第128回 原田武夫
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