私事で恐縮だが、そのことに感服したぼくは、『祇園白川 小堀商店 レシピ買います』(新潮文庫)という小説を書き、失われかけたレシピを復活させるという物語を作った。とかく、今はやりのとか、今人気の、とかばかりに熱心なのが、近ごろの風潮だが、先を見通し、手を打っておかないと、将来の日本の食は危ういものになる。消滅すると分かってから感傷的になったり、憤ったりしても仕方がない。
未来に向けて種をまいておくことが、いかに大切かを改めて感じた皐 月の終わり。皐月は早苗月。田植えをしなければ稲は実らないのだ。
柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
※『Nile’s NILE』2024年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています