前回の続き、沖縄のホテルの食である。
前回ご紹介したのはエンターテインメント性の高い、音楽をテーマにしたホテルだったが、今回ご紹介するのは、正統派の沖縄ビーチリゾートホテルである。
沖縄本島で、ビーチリゾートホテルが集中しているのは、多くが西海岸であり、なかでも恩納村周辺は密集地帯とも言える。
沖縄本島の背骨でもある、国道58号に近く、アクセスが便利ということもあるが、その天候が安定しているというのも、ビーチリゾートホテルが立ち並ぶ理由でもある。
沖縄ほど天気予報があてにならない土地は他にない。一日中雨の予報だったのに、一滴も降らずに晴れ渡っていた、という経験も一度や二度ではなく、もちろんその逆もある。
だが、総じてお天気に恵まれるのは西海岸のほうだ。天気予報がたいてい、いいほうに外れる。
2018年8月にオープンした「ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド」。実はオープンして間なしに、このホテルを目指す旅を計画していたのが、オープン1カ月後の台風で大きなダメージを受けたと聞き、やむなく延期していたのだ。
その健在ぶりを知ったのは、本誌である。ホテルレストランの充実をはかり、これまでの沖縄にはなかった料理を提供すると記事にあった。
それがどういうものかといえば、沖縄料理をベースにした炉端焼きだというのだ。それも料理監修を、本誌でもおなじみの神田裕行氏が手掛けるというのだから、何をおいても食べてみたいではないか。
沖縄料理に限ったことではないが、とかく郷土料理というものは、型にはまりすぎてしまい、ワンパターンになりがちである。ともすればやぼったくなってしまう郷土料理だが、さりとて、その地方に行けば食べずにおられないのも、旅人の人情というものである。
いつも本誌で拝見する神田さんの料理は基本に忠実ながら、創意工夫のあとが見てとれる、実に魅力的なものばかりだ。その神田さんが手掛ける沖縄料理とは、はたしていかなるものなのか。
料理の前に、まずはホテルの紹介をしておこう。
沖縄本島の西海岸、恩納村にある瀬良垣島。この小さな島をまるごとリゾートホテルにしてしまったのである。とはいえ地続きだから、アクセスは至便。那覇空港から車で1時間ほど走れば、ホテルのフロントにたどり着けるのだ。
さまざまなタイプの客室を多くそろえているホテルだが、僕のおすすめはリージェンシークラブのアクセスが付いた部屋。
チェックイン、アウトを、クラブデスクで行えるので、何かとスムーズにことが運ぶ。加えて、朝、午後、夕とクラブラウンジが開放され、ゆったりとした時間が過ごせる。
小さな島のなかに立っているホテルだから、客室からの眺望は申し分ない。ふつうなら夕食まで客室でくつろぐところだが、せっかくのビーチリゾートホテル。まずはプールで水と戯れる。インフィニティプールは、海と一体になれるのがうれしい。
ひと泳ぎしたあとは、部屋でシャワーを浴びてラウンジへ。アペリティフタイムを愉しもうという目論見だ。
簡単なおつまみも用意されていて、セルフサービスのスパークリングワインをラウンジのテラスで愉しむ。これぞリゾートホテルの醍醐味。日が傾き始め、やがて空があかく染まり始める。一杯のつもりが二杯になり、ついつい飲み過ぎてしまうのも、豊かな時間と言えなくもない。そう言い訳しながら、お目当てのレストランへ。
2階にある店は、〈シラカチ〉という和食レストランで、その奥にあるのが〈シラカチ・炉端〉。三方がガラス張りになっていて、海を望む眺めもいい。真ん中がオープンキッチンで、それを囲むようにしつらえられたカウンター席でのディナータイム。
メニューを開くと、基本は沖縄料理だが、独自のアレンジを加えているようで、オーダーを済ませると、期待に胸がふくらむ。
本連載では何度も書いていることだが、細かな食の描写は避けてきている。微に入り細をうがつような食描写は、ひとりよがりに陥ってしまうからだ。
食事を終えての結論。このレストランの料理を食べるためだけに沖縄を訪れても、決して後悔しないだろう。とりわけ〈ふわとろゴーヤチャンプルー〉は傑作。洗練を極めた郷土料理。きっとこれから大きな流れとなるに違いない。
柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修を務める。小説『鴨川食堂』(小学館)はNHKでテレビドラマ化され続編も好評刊行中。『グルメぎらい』(光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『憂食論 歪みきった日本の食を斬る!』(講談社)など著書多数。
※『Nile’s NILE』2019年8月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています