生まれ育った京都以外で、どこが好きかと聞かれれば、真っ先に沖縄の名を挙げる。
ここ10年ほどは、毎年必ず沖縄の地を訪れていて、沖縄本島はもちろん、石垣島や宮古島といった離島に足を延ばすこともしばしばである。
何がお目当てかと言えば、一に空気、二に眺め、三に食、四に人、といったところだ。
日本のなかで、最もリゾートという言葉が似合うのは沖縄だと思っている。北海道や信州をはじめとして、旅先にふさわしい土地はいくらもあるが、エリア全体をリゾートと呼べるのは沖縄地方だけではないだろうか。
おなじ日本にありながら、海の色がまったく違う。それを眺めるだけで心休まるのだ。
関西からだと2時間ほどのフライトという距離感もちょうどいい。
沖縄本島への旅は那覇空港からはじまる。西海岸でも東海岸でも、レンタカーかタクシーでホテルへ直行する。ゆいレール以外の鉄路がない沖縄では、移動は基本的にクルマ。本土に比べて料金の安いタクシーが一番のおすすめだ。
むかしはホテルを泊まり歩いたこともあったが、今はもっぱら滞在型。おなじホテルに、少なくとも3泊、できれば5泊ほどしたい。となると、大事なのはホテルの食事。那覇市内のホテルならともかく、ビーチリゾートのホテルとなれば、基本的に朝食と夕食はホテルの食事に頼ることになる。なので、1カ所しかレストランがないホテルは、必然的に避けてしまう。
近年よく利用しているのが『ラグナガーデンホテル』。西海岸の宜野湾にあるので、空港からのアクセスは極めて便利だ。うみそらトンネルと最近できたバイパスを使えば、空港から20分ほどでホテルにたどり着ける。
このホテルを定宿としたのには、いくつか理由があり、ホスピタリティーであったり、快適な居心地だったりするのだが、一番の決め手は食である。
和洋中がそろい、眺めのいいバーがあり、ルームサービスもある。加えてこのホテルには焼き肉レストランがあるのだ。
ホテルの肉料理といえば、たいていが鉄板焼だが、ここは網で焼く真っ当な焼き肉。しかも、銘牛で名高い石垣牛もオンメニューされることもあるのだから、肉好きにはうれしい限り。沖縄の肉というと、どうしても、ボリューム優先のステーキを思い浮かべるだろうが、このホテルではレベルの高い焼き肉を手ごろな価格で味わえるのだ。
さて、今回のお話の本題はこれからである。
梅雨のさなか。例年通り沖縄を訪れ、ふたつのホテルを泊まり歩き、これまでにない沖縄の食を味わうことができた。その話をしよう。
ある意味で対照的なふたつのホテルだった。
そのホテル。1軒目は北谷アメリカンビレッジのただ中にある『リンケンズホテル』。
このホテルの最大の特徴はシアターレストランを備えていることだ。その名を『カラハーイ』と言い、ホテルに隣接していて、毎夜、沖縄らしいステージを観ながら、沖縄料理に舌鼓を打てるという、愉しい趣向なのだ。
沖縄に限らず、郷土芸能の歌や踊りを観ながら食事をできる店はよくあるのだが、この『カラハーイ』はそれらとは一線を画していて、本格的な沖縄音楽を中心としたエンターテインメントなのだ。
日曜から金曜までは〈ティンクティンク〉などのグループライブで、土曜日はホテル名の由来ともなっている〈りんけんバンド〉のショーが行われる。
ステージは19時から20時半までの1時間半だが、18時の開場から21時のクローズまで、3時間ゆっくりお酒や食事を楽しめるのがなんともうれしい限りだ。
ここで供される料理は、隣のホテルレストランから運ばれ、名物の〈美浜ロール〉や〈てびちの唐揚げ〉、〈ゴーヤーチャンプルー〉など、郷土色豊かな料理を、泡盛や〈オリオンビール〉と一緒に味わえる。
リゾートホテルと本格的なディナーライブシアターが一体となる。これまでの日本では、ありそうでなかったエンターテインメントだ。
上質の料理とステージの競演は、感動的な食の時間を与えてくれる。ここが先駆けとなって、日本中のリゾートに、こんなシアターレストランが増えれば、どれほど食事が豊かになるだろうか。考えただけでワクワクする。
柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修を務める。小説『鴨川食堂』(小学館)はNHKでテレビドラマ化され続編も好評刊行中。『グルメぎらい』(光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『憂食論 歪みきった日本の食を斬る!』(講談社)など著書多数。
※『Nile’s NILE』2019年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています