妹島和世氏が手掛ける「オクト」最新モデル
今やブルガリを代表するタイムピースコレクションに成長した「オクト」が発表されたのは2012年のことだ。この10年間に「オクト」から八つもの世界最薄記録モデルを輩出し認知を拡大。また、アーティストやクリエイターとのコラボレーションモデルも、その世界観を広げた。これまで多くの日本人がコラボプロジェクトに起用されてきた。インダストリアルデザイナー・奥山清行氏、日本画家・千住博氏、建築家・安藤忠雄氏、現代美術家・宮島達夫氏―。そして今回、建築家・妹島和世氏に白羽の矢が立った。
妹島氏は、国内外で数々の賞に輝く、日本を代表する建築家。その作風は、大胆な造形でありつつ、周囲の環境との一体化も意識し、ガラスを用いたファサードに象徴される、オプンで透明感があり、内と外とがつながるような空間を特徴とする。
そんな妹島氏がデザインを手掛けた「オクト フィニッシモ 妹島和世限定モデル」は、既存の「オクト フィニッシモ」と大きく趣を異にする。「オクト」といえば、マットな質感の印象があるが、この時計はフルポリッシュ仕上げ。まるで鏡のようにきらめき、周囲を映す。
アワーマーカーを排したサファイアクリスタル製の文字盤も強いミラー効果を放つ。サファイア風防の裏側には繊細なドットパターンが施され、これによってポリッシュ仕上げの時分針は見る角度により姿を消したり、時刻を浮かび上がらせたりする。この時計に、妹島氏はどんな発想や思いを込めたのか? インタビューの機会を得た。
透過と反射を重ねて
「初めて『オクト フィニッシモ』を目にしたとき、薄くシャープでキレイな造形だと感じました。八角形も力強さがある。これをもう少し柔らかくしたら女性もつけやすいのでは、と考えました。風防に細かいドットの処理をしていますが、光の透過と反射によって、正面から見たとき文字盤の八角形は輪郭が曖昧になり、丸の中に八角形が浮かんでいるように見える。針も角度によってバシッと見えるときもあれば、フワッと消えるようなときもある。さらに全体を鏡面にして、着けている時に周囲が映り込むようにしました」
この時計のコンセプトに通じる建築として、1870年創業のパリの老舗百貨店サマリテーヌのリヴォリ館のガラスのファサードを挙げた。サマリテーヌは、ルーブル美術館のやや東、シテ島に続くポンヌフ橋の北に位置し、目抜き通りのリヴォリ通りに面して立つ。2001年にLVMHグループが買収し、時間をかけてリノベーションと隣接エリアの再開発を進め、21年6月にリニューアルオープンにこぎ着けた。妹島氏と西沢立衛氏とのユニットSANAAとして手掛けた同店リヴォリ館のファサードは、大胆な波打つガラスによって覆われ、パリの街並みを映し出す。