読者の皆様もそろそろ気づき始めていると思うが現下の状況から未来へと抜ける時に起きることは「これまで起きてきたことの繰り返し」ではないのである。そうではなくて「これまでの全てが根底から変わる」ことになる。まずはこのことについて踏まえておかなければならない。
このことを私はかねてより「グノーシス主義的転回」と呼んでいる。グノーシス主義とは古代キリスト教以来の考え方であり、正統派(カトリック教会)から「異端」の烙印を押されつつも自らの教義と秘儀を守りつつ、神からの経綸により自らこそが普遍となる時が必ずやって来ると信じていた集団の行動・思考様式のことを指す。そして転回なので180度物事が変わる。そうした瞬間がこれから私たちの未来で待ち受けているというわけなのである。
「どことなくこれまでと違うということは分かった。しかし何が具体的に変わるのかがイメージできない」
そうお嘆きの読者のために今回はいくつかそこで生じるはずのことを列挙したいと思う。
第一に我が国についてはそれが歴史的によって立ってきたことどもについて大転換が生じ、それに連鎖する形で付随する全てが変わることになる。前者の典型が我が国の皇室である。すでにその予兆は見えているわけだが、要するにこれまで「当たり前」と思われてきたそこでの「筋」がもはや当然ではなくなり、全く違う「筋」によって代替される。
また我が国では戦後、「象徴天皇制」が当然視されているがそれを定める日本国憲法を踰越する事態が生じるならばどうか。実際これが生じることにより天皇とその周辺は「象徴」という檻との関係を再度整理することになるはずだ。
我が国の政治とそれが織りなす利権構造は変わらないはず、と思う方も多いだろう。しかし戦後まもなくに我が国の政党政治における根本ルールを創った勢力が動くならばどうか。簡単に言えば我が国の政党には根本となる資金・ファンドが存在している。これを最初に提供した向きが一斉に回収すると言い出したらどうなるのか。保守・革新を問わず、我が国の政党政治は一気に変転し始めるはずだ。なぜならば政治は所詮「カネ」だからだ。
目をグローバル・シーンに転ずるとまず同じことが欧州勢について言える。「ユーロ」が崩壊するのはその原資産をもってもはや担保できなくなったからだと考えると今の動きは理解できる。かろうじてパンデミックへの対策で「欧州勢の結束」を訴えているがそれが終わったらどうなるのか。また「原資産の追加」が応じられなかったらば「欧州統合」は終わるのである。だからこそ、裏付け資産を必要としない「電子マネー」へユーロを切り替えるという動きが見られている。
そして最後に米国勢だがここでも話は同じだ。民主・共和両党によるシーソー・ゲームが民主主義であると信じられていた根底には米国債による財政的な下支えがあった。しかしそうした金融上、当然視されていた状況がいよいよ変転を余儀なくされるとすればどうか。つまり米大統領が代わるたびに原資産が確認されてきた米国勢の「根源的な金庫」に追加資産がしかるべき筋から出されないとすればシステム転換は当然生じるのである。
こうした原資産による裏付けのない米大統領が何を言ってももはや諸国勢はその言うことを聞かないであろう。なぜならば資産的な裏付けがないことが明らかになった米国勢の通貨(ドル)・国債は通用力を失うからだ。米国勢は弥縫策としてデジタル通貨の発行に走るが問題の解決にはならない。
混沌とする状況が「グノーシス主義的転回」であることをあらかじめ認識しているかどうか。そのことを覚知できるセンスを持っているかどうかが、読者自身に問われている。
原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています