日韓の両手を縛った米国の真意

時代を読む 第118回 原田武夫

時代を読む 第118回 原田武夫

時代を読む 第118回 原田武夫

8月18日、米国のキャンプデービッドで日米韓首脳会議が実施された。「8月」は普通ならばバケーションシーズンである。それなのに米国のバイデン大統領が3カ国首脳会議の実施に踏み切ったということ自体、異例中の異例と言うべきなのだ。無論、そこには喫緊かつ明確な理由があるはずなのである。我が国の首相官邸、そして外交当局はというと、例によって「極めて有意義な首脳会議であった」と、いつもの口上を繰り返している。しかし、果たしてそのように無条件で「良かった! 良かった!」と繰り返すだけでいいのであろうか。かつて我が国の対北朝鮮外交の最前線にいた筆者の目には決してそうは映らない。なぜか。

我が国、韓国のいずれもが依然として経済の低迷に苦しみ続けている。韓国は円安の恩恵を受けているかのように見えるが、他方で特に中国との関係悪化のため経済不振は続いており、時の尹政権には「カンフル剤」がどうしても必要な状況になっている。我が国の岸田政権とて同じであり「新しい資本主義」などと新しいフレーズを叫び始めたのはいいがいかんせん、「経済不振に対する特効薬」が存在しないため、もっと愚劣なレベルで生じてきた政治スキャンダルにかき消され、支持率が低迷してしまっているのである。

そうした日韓両国の政治的リーダーシップにとってのどから手が出るほど動かしたいのが「北朝鮮問題」なのである。まず、日韓相互が歩み寄りつつ、北朝鮮に対して共同でアプローチをする。「岸田電撃訪朝」を我が国としては実現したいところだが、広島をベースとした在日ネットワークが北朝鮮へとアウトリーチできているとはもはや言えない状況が続く中、こうしたアクロバティックな外交展開はほぼ期待できない。岸田文雄総理大臣が我が国政府高官を用いて第三国で北朝鮮側と接触をさせたと報じられているが、そもそもこうした報道が出ること自体、当該第三国を含め、関係国がこうした動きに対して疑心暗鬼の念を抱いている証拠に他ならない。

そこで韓国の登場、というわけなのである。我が国との間で特に「過去の問題」である程度の大団円を政治的に演出できれば、その見返りとして韓国の尹政権としては次に北朝鮮問題で我が国の手助けをした結果始まる日朝交渉に事実上首を突っ込むことができる。

韓国の歴代政権にとってどうしても食い込みたいのが、我が国が無償資金協力援助で行う北朝鮮に対する事実上の「償い」の資金による「北朝鮮勢の資本主義化」という、史上空前の規模でのインフラ整備プロジェクトに参画し、そこから巨額の裨益をすることであり続けてきた。こうした意向を韓国側では、例えば李政権(当時)が露骨に表明したことすらあるほどである。

問題は肝心の北朝鮮がこうした日韓からの「ラブコール」に乗ってくるのかという点にあるが、意外にあり得るというのが筆者の見立てだ。「ウクライナ戦争」を巡ってバイデン政権はロシアの出方に依然として手を焼いている。他方でロシアは北朝鮮に対し軍事顧問団を派遣し、その武器開発に手を貸している。元来、北朝鮮は「日韓は米国を丸め込めばそれら両国だけで独自の動きを見せない」と踏んできた経緯があるが、米国がロシアを「ウクライナ戦争」絡みで抑え込もうとすると自ら北朝鮮とロシアの協力関係を糾弾してくるはずなのだ。結果、北朝鮮は米国との関係を悪化せざるを得なくなるわけで、その流れの延長線上で「日韓が共同で北朝鮮に対し、米国抜きでアプローチしてしまう危険性」が出てくるのである。

だからこそ、米国は異例の「夏休みをつぶして」でも日韓両国の首脳を呼び出し、北朝鮮との間で勝手な動きをしないように、と釘を刺したのである。だがこのことは裏を返せばそれだけ米国が焦っていることの証左である。なぜなのか? 引き続きウォッチをし続けるべき重大なテーマがここにある。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』2023年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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