読者であれば、折に触れて紹介しているフランソワ-ポール・ジュルヌ氏が、現代の最高の時計師の一人であることは、すでにご承知だろう。
フランス・マルセイユの悪童だった彼は、地元の時計学校を退学同然でパリに移り、改めて時計学校で学びながら、叔父の時計工房で働くうちに才能を開花させる。当時、数えるほどの時計師しかものにしていなかったトゥールビヨン懐中時計を、弱冠25歳で完成させたのが1982年。以降、実績を積み重ね、自身のブランドF.P.ジュルヌを99年ジュネーブに設立。その際お披露目されたのが、今や伝説の「トゥールビヨン・スヴラン」である。トゥールビヨンに加え、トルクを一定に保つルモントワール機構を搭載。その後、改良を加えながら、現在もブランドを象徴するモデルとして揺るぎないポジションをキープしている。
2019年にブランド創立20周年を記念して発表されたのが、ここに紹介する「トゥールビヨン・スヴラン」である。ファーストモデル「トゥールビヨン・スヴラン」をオマージュしながら、通常の仕様とは異なり、トゥールビヨン・ケージを文字盤に対して垂直方向に設置。さらに通常よりも高速の30秒で1回転させ、重力の影響を平均化する効果を高めた。ルモントワール機構と、それに連動してステップ運針するデッドビートセコンドも備える。
自社グループ傘下の文字盤ファクトリーとジュネーブ在住のエナメル師とが共同して作り上げたエナメル文字盤と、それを取り巻く18KRG製輪列受けに施されたクルー・ド・パリ装飾の競演を始め、外装も見事。20年という時間がもたらした進化を雄弁に物語る一本である。
この辣腕時計師が、8年という時間を費やして用意し、14年に発表した女性用モデルも、注目に値する。その名は「エレガント」。フラットなトノウシェイプのケースに搭載するのは、エレクトロメカニカル・キャリバー1210。クオーツと同じく水晶振動子とICによる精度調整機構を持ち、電力で駆動するが、特筆すべきは4時30分位置に搭載されたモーションディテクターである。
この機構が、腕時計が着用中か、外されているかを検知。静止状態と判断すると約30分後に時計の動きを停止し、バッテリー消費を節約。スリープモードにあってもマイクロプロセッサが時を刻み続け、改めて腕に着けたことを検知すると、瞬時に現在時刻に復帰する。
快適で利便性の高い機能は、まさにF.P.ジュルヌの面目躍如たるものだが、アクティブで自立した現代の女性にフィットするデザインも見逃せない。中でもダイヤモンドとサファイアが芸術的にセットされたモデルのゴージャスな存在感は際立っている。
ウォッチメイキングの伝統に敬意を払いつつ、常に独自のクリエーションに邁進するフランソワ-ポール・ジュルヌ氏。その哲学を身に着けるのは、なんと刺激的で気分を高揚させてくれることだろうか。
●F.P. ジュルヌ 東京ブティック
TEL 03-5468-0931
※『Nile’s NILE』2021年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています