To the Future 次世代への贈り物
シンプルな機能美をたたえたものから、精緻(せいち)を極めた複雑機構まで、パテック フィリップが世に送り出してきたのは、至高の腕時計だけである。そこには凡庸さや妥協などという言葉は、一切見あたらない。
そんな中でもワールドタイムのアイコニックな魅力は格別だ。メインの時刻表示の他に、反時計回転する24時間リングを備え、世界の主要24都市名を配した外周リングと対応し、瞬時に世界中の時刻を把握できる。
旅や出張の際に利便性が高いことは言わずもがな。かの地は今何時で、そこで人々はどう動き、何を思うのか……そんな時のロマンにふけることも可能にするモデルである。
パテック フィリップが、時計師ルイ・コティエ考案によるこの機構をベースに、ワールドタイムを初めて発表したのは1937年のことだ。旅客機によるラグジュアリーな旅を楽しむ人々が登場し、世界中の時刻を把握することが求められ始めたタイミングを捉えたものだった。
その後、改良を加える一方、クロワゾネ(七宝)文字盤による工芸性の高いものなども登場し、50年代半ばまで製作が続く。当時のモデルの中には、オークションにおいて数億円で落札された伝説的な時計もある。
しばらくシーンから遠ざかっていたワールドタイムが復活したのは、ミレニアムを迎えた2000年。新世代ワールドタイムの嚆矢(こうし)となったモデル5110には、10時位置のプッシュボタンでメインの時針を1時間ずつ先に送るのと同時に、24時間リングと都市名リングも連動して反時計回りに進められる機能が加えられていた。これにより、現在地の都市名を12時位置に合わせるだけで、メインの時刻表示も簡単に連動させられるようになった。この調整の際、計時用の輪列や調速脱進機には全く影響がない設計も特筆したい。
ワールドタイム5110は、その後06年に、1930年代に存在したリング状の時針他、デザイン変更された5130へと生まれ変わり、2016年には、ここに紹介している5230へと進化を遂げている。
ウィングレット(小翼)スタイルのラグを備え、フラットなベゼルを採用したケースには、22K製マイクロローターによる薄型のCal.240 HUを搭載。文字盤中央には、パテック フィリップ・ミュージアム所蔵の歴史的懐中時計に施されていた繊細な籠の編み目模様を着想源とするギヨシェ装飾を施し、南十字星にインスパイアされたオープンワークの時針とひし形の分針を採用するなど、伝統への敬意の中にモダンな洗練がもたらされた。
また、タイムゾーンの都市名の一部が、リヤドからドバイに、ヌメアからブリスベンに変更されたことや、以前UTC(世界標準時)+4を採用していたモスクワがUTC+3に変更されたことなどに対応した実用的な変更も反映されている。
世界の時を腕に載せる、ロマンと実用性とプレステージ性において、ワールドタイム5230をしのぐものはない。
●パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
TEL03-3255-8109
※『Nile’s NILE』2018年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています