刻む時に、旧東欧の残り香

チェコにおける唯一の腕時計ブランドとして、1949年以来歴史を刻んできたプリムが、日本に初上陸。誠実なもの作りのスタンスや、歴史的なドラマの中で育まれたロマンが香るプリムの魅力を、ヨーロッパで繁栄や金運の守り神とされ、チェコ語で“蜘蛛”を意味する「パヴーク」とともに紹介する。

Photo Takehiro Hiramatus(digni) Text Yasushi Matsuami

チェコにおける唯一の腕時計ブランドとして、1949年以来歴史を刻んできたプリムが、日本に初上陸。誠実なもの作りのスタンスや、歴史的なドラマの中で育まれたロマンが香るプリムの魅力を、ヨーロッパで繁栄や金運の守り神とされ、チェコ語で“蜘蛛”を意味する「パヴーク」とともに紹介する。

パヴーク34
パヴーク34 シンプルな3針でありながら、個性的なラグや、1960年代に用いられていたハートパターンを文字盤に施すなど、こだわったディテールが見て取れる。日本市場向けに、赤い秒針を採用した他、あえてデイト表示を排し、端正な表情を際立たせた。文字盤はシルバー、ブラック、ホワイトの3色を用意。「パヴーク34」手巻き、ケース径34㎜、SSケース×リザードストラップ、496,800円。

チェコと聞いて、何を思い浮かべるだろうか? 世界遺産にも登録されている古都プラハの街並み、美しいボヘミアンガラス……、作曲家スメタナやドボルザーク、作家カフカ、画家ミュシャなどを輩出した国として記憶している人もいるだろう。

チェコと時計―そこに結び付きを見いだす人は、少ないかもしれない。しかし、チェコには古くから鉱工業や金属加工業が盛んだった歴史があり、時計に関する技術も進んでいた。それを今に伝えているのが、15世紀にプラハの旧市庁舎の塔に造られた巨大な天文時計である。天体の動きを示す機構に加え、毎正時にキリスト十二使徒の人形が姿を現し、トランペットが吹き鳴らされる仕掛けまでもが組み込まれている。現在は修復を経て電動式となったが、往年の技術には驚くほかない。

そんなチェコの技術的伝統を伝承する唯一の腕時計メーカーが、プリムである。プリムとは、チェコ語で“端正”を意味する。1946年に共産主義政権下で誕生した国営時計工場を前身とし、49年に腕時計に特化
した工場として、ポーランド国境に程近いノヴェー・メェスト・ナド・メトゥイーに設立。外装からムーブメントまで自社で一貫生産する、いわゆるマニュファクチュールとして、1990年代までに、国民的腕時計メーカーというポジションを築いていく。

「パヴーク」は、ヨーロッパでラッキーチャームとされる“ 蜘蛛
「パヴーク」は、ヨーロッパでラッキーチャームとされる“ 蜘蛛”を意味するネーミングのコレクション。

89年に共産主義政権が崩壊、93年にチェコとスロバキアとが平和的分離を実現するなど、歴史の転換点を経て、プリムも民営化されるが、一時量産モデル製造や生産規模縮小を余儀なくされる時代を経験。しかし2000年に体制を一新し、高品質の機械式時計を自社生産する方針の下で息を吹き返す。かつての自社製ムーブメントに改良を加えた新ムーブメントの開発にもこぎ着けた。

そんなプリムの名が、あまり知られてこなかったのは、これまでほとんどチェコ国内でしか流通していなかったのが大きな理由だろう。海外市場進出への第一歩として、昨年から日本での展開が始まったばかりだが、1950~60年代のモデルのDNAを感じさせる外装に、自社製ムーブメントを搭載したモデルが、早くも愛好家の間で話題を呼んでいる。スイスやドイツの大手メーカーに比べれば生産規模は小さいが、その希少性ゆえ、関心を寄せる人も少なくない。

ここに紹介する「パヴーク」は、ヨーロッパでラッキーチャームとされる“ 蜘蛛”を意味するネーミングのコレクション。蜘蛛を思わせる個性的なラグの形状が印象的。アンティークのような雰囲気の直径34㎜のケースは、昨今のスモールサイズのトレンドにもマッチする他、女性の手首にもフィットする。表裏を削り出した、チェコ特産のボヘミアンサファイアクリスタルを風防に採用している点も興味を引く。

かつて帳(とばり)の向こうにあった東欧という時間と空間の中で育まれ、今ようやくその魅力を発信し始めたプリム。その真摯なもの作りと、ロマンに触れてみてはいかがだろう。

●問い合わせ ブレインズ 03-3510-7711

※『Nile’s NILE』2016年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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