ロンドンから北西部へ走ると、美しい自然で知られるコッツウォルズに行き着く。シェイクスピアの故郷を始め、愛らしい中世の町並みが点在する。同時に、産業革命の中心的な役割を果たしており、“英国の自動車産業の故郷”とでも呼べる地域だ。
英国を代表するラグジュアリースポーツカーメーカーとして名を馳せるベントレー本社も、このエリアにある。白を貴重にしたモダーンなファサードだが、背後には1938年に建設されて今日までベントレーを世に送り出してきた赤レンガの古式ゆかしいクルー工場があり、1919年の創業時から連綿とモノ作りの精神が受け継がれている。
一歩足を踏み入れると、英国のクラフツマンシップの息づかいが感じられる。木や革を使ったパーツを生産する工程で、入手が困難な最高品質のウォールナットやバーズアイメープルが棚いっぱいに積まれている光景は圧巻だ。美しい木目を選んで長い年月を経て乾かしたあと、“ブックマッチ”と呼ばれる木目合わせの作業をしていく。さらに自然の木目を生かして、ドアトリムやセンターパネルのカーブに沿って美しい象嵌を施していく。
革の加工もしかりだ。厳選された素材の中から、さらに高品質の部分のみを選んでレーザーで効率よくカットしていく。熟練の技術でパーツを縫い上げ、シートに仕上げる。ステアリングホイールの製造には17時間、クロスステッチを施すなら、さらに37時間もの手間が加わる。
熟練の作業を目にした後、コンチネンタルGT V8Sのドライバーズシートに滑り込む。象嵌や手の込んだステッチは美しい工芸品のようだ。Sモードに入れてアクセルを踏むと、新開発V8エンジンが荒々しい排気音を奏でながらボディーを加速していく。
一方で、高速巡航などではエンジンの半分をわずか100分の数秒で休止し、環境への配慮も忘れていない。もちろん、変速を機械に任せて、ラグジュアリーカーらしいゆったりとした走りを楽しむのもいい。うれしいことに、この日は1930年型エイトリッターという歴史的なモデルの試走もかなった。
ドライブを堪能した翌日は、南へと舵を切る。コッツウォルズとはまた違う、南イングランドの美しい景色が広がる。
目的は、クルマ好きなら誰もが憧れるグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードだ。由緒ある英国貴族にして、世界有数のエンスージアストとして知られるチャールズ・マーチ卿が自身の領有地に特設コースを設けて、新旧のレーシングカーを競わせる。しかも、運転席に座るのは新旧の名ドライバーたち。応援する声もおのずと高くなる。
ベントレーからはル・マンで勝利したレーシングカーに加えて、コンチネンタルGT V8をベースに580ps/700Nmまでスープアップを施した「GT3-R」が登場している。
美しい自然とスポーツカーが共存する世界は、荒々しくも美しい。伝統のクラフツマンシップと超ド級のスペックが共存するベントレーの世界観とも、通じるものがある。
●ベントレー モーターズ ジャパン
フリーダイヤル0120-97-7797
※『Nile’s NILE』2014年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています