新しいアウトドアのスタイルとして注目を集め、瞬く間にリゾートステイのカテゴリーに定着したグランピング。「glamorous」と「camping」を合わせた言葉の通り、2000年以降、アメリカやイギリスで培われた「優雅なアウトドア」の形は、日本ではここ星のや富士から全国へと広がった。富士山の裾野に広がる富士五湖の一つ、河口湖畔の丘陵地帯にスコープ状のキャビン(客室)、ダイニング、焚火を囲むクラウドテラスが連なる。テラスリビングを備えたキャビンでは、居ながらにして湖畔の自然との一体感に包まれ、夜はファイヤープレイスの炎が心を鎮めてくれる。
「ガストロノミック・ワイルド」を標榜(ひょうぼう)する食体験も、大きな魅力の一つ。富士山周辺の豊かな生態系の中で育まれるとびきりの食材を、屋内外のダイニングでさまざまに楽しめる。真骨頂は、森に囲まれたアウトドアダイニング「フォレストキッチン」が舞台となる「ジビエディナー」だろう。猟師のライフスタイルから着想を得たというコースは、卓上にセットされた小型グリルを使い、ゲスト自らが料理の仕上げを行うスタイルが新鮮だ。主役となるのは鹿や猪(いのしし)、大鱒(おおます)など、近隣の大地からの恵み。
「野生の生き物は、季節の中での命の営みが味に出る。同じ鹿でも、食べているのが果物か木の実か、つまり夏か秋かで味が異なる。それが味づくりの、そしてドリンクとのマリアージュの鍵になるんです」と、話すのは須川正大(すがわまさひろ)料理長。例えば今の時期、木の若芽や山菜を食べる春のジビエは、青い香りとフレッシュさが際立つ。ならばパスタの鹿肉ボロネーゼソースには蕗味噌(ふきみそ)を、メインの鹿肉のグリルには木の芽味噌を、という具合。ちなみにオリジナルのショート“パスタ”は、山梨県の郷土食として有名なほうとうの一種。食材選びから仕立て、調理法にまで土地の食文化への敬意が貫かれている。
卓上のグリルで行う調理の仕上げは、猟師の生活へのオマージュであり、ここでのステイが「グランピング」たる由縁でもある。驚くべきは、食材の下ごしらえの精度で、誰もが安全かつ食材の最高の持ち味を引き出すゴールにたどり着けるよう計算されている。つまり「作る楽しさ」が「美味しさ」を損なわないように。「提供前の火入れや保存に関しては、確かに心を砕き、何度も試行錯誤を重ねました。でも最後に味のクオリティーを左右するのは猟師さん。素晴らしい仕事に助けられています」と、須川料理長。休日の多くをキャンプやアウトドアに費やすというが、その体験で培われた視点や知見すべてが、味に生きているのだ。
静かな森の中に、風がある日は木立のざわめきが、雨が降る日は雨音が響き、一期一会の自然のサウンドに感覚が研ぎ澄まされる。高低差のある広大な敷地内を歩き回ってアクティブに過ごすもよし、キャビンやウッドデッキでゆったりと過ごすもよし。高級リゾート並みの快適さと大自然との一体感が、滞在中すべての時間に約束されている。
●星のや富士
山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408
TEL 050-3134-8091(星のや総合予約)
※『Nile’s NILE』2025年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています