広島大学准教授に聞く驚くべき骨の力

健康を保つために必要なのは、骨を鍛えることである。難しそうに聞こえるが、骨はもともと再生する能力が高く、全身の骨は3年から5年ごとにすべて“新品”に生まれ変わっているという。骨は運動機能のみならず、全身の代謝や多臓器に働きかけるホルモンの分泌、造血を行い、生命維持の機能も担っている。身体の内外において全身を形作っている骨を上手に調整できれば、若さと健康を保ち、活力に満ちた心身を維持できるのだ。

Photo Satoru Seki  Text Rie Nakajima

健康を保つために必要なのは、骨を鍛えることである。難しそうに聞こえるが、骨はもともと再生する能力が高く、全身の骨は3年から5年ごとにすべて“新品”に生まれ変わっているという。骨は運動機能のみならず、全身の代謝や多臓器に働きかけるホルモンの分泌、造血を行い、生命維持の機能も担っている。身体の内外において全身を形作っている骨を上手に調整できれば、若さと健康を保ち、活力に満ちた心身を維持できるのだ。

驚くべき骨の力、広島大学、黒坂志穂
黒坂志穂(くろさか・しほ)
広島大学大学院人間社会科学研究科 准教授

1984年、鳥取県出まれ。広島大学大学院教育学研究科博士。幼少期から20年間、競泳に打ち込むも、腰痛やひざ痛など慢性的な不調に悩まされる日々を送る。そんな中、骨に着目したトレーニング方法に出会い実践したところ、長年の不調が驚くほど改善。以来、年齢を重ねるごとに身体が軽く、より活力のある日々を送っている。この経験から、骨が持つ可能性に魅了され、健康効果の研究をスタート。研究成果を広く届けたいという想いから、2024年2月に広島大学発ベンチャーとして「骨を整えるエクササイズ」の動画会員サービス「OSTEO(オステオ)※」を立ち上げ、骨を通じた健康づくりの普及に取り組んでいる。
※詳細はホームページ(www.osteo.co.jp/)を参照。

骨が支える体

人間の体はおよそ200本の骨と、骨と骨をつなぐ350の関節でできている。たとえば膝(ひざ)の曲げ伸ばしは、上下2本の脚の骨を使うだけの単純な構造だが、O脚などが原因で偏った外側への負荷が続くと関節がすり減り、変形関節症を発症してしまう。こうした骨の問題が、現代病の大きな要因の一つとなっている、と黒坂志穂准教授は語る。

「骨の問題というと骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のことを考えがちですが、骨の中には関節も含まれます。近年、変形性膝関節症や股関節症は、推定3000万人といわれています。骨は体を動かし、支え、統合するために不可欠な器官であり、身体の形を作っています。また、骨は血液や免疫細胞を製造しているだけでなく、脳や免疫を活性化させ、脂肪を減らし筋力を向上させる骨ホルモンを分泌していることが近年注目されています」

驚くべき再生力

私たちの体の中核を成す骨。一見、硬くて動かないように見えるこの組織が、実は若さと健康を支える力を秘めているという。

「骨は生命の源ともいえる重要な組織です。その証拠に、骨には極めて精密なセンサーが備わっていて、微細な刺激でも敏感に感じ取り、必要に応じて自らを作り変えていくのです」

骨の驚くべき特徴は、その完全な自己再生能力だ。骨は古い部分を分解しながら、同時に新しい骨を作り出していく。この作業を繰り返し、3〜5年で全身の骨が生まれ変わる。これは傷んだ部分だけを修復する筋肉や内臓とは、一線を画す特徴だろう。

身体の質量のおよそ20%を占める骨は巨大な組織だが、これが完全に入れ替わるには、莫大なエネルギーが必要となる。「骨は全身の代謝を司っているといえます」と黒坂准教授。

その変化は想像以上に速い

「健康な人でも、重力のない宇宙で2~3週間過ごすだけで骨粗鬆症と同程度まで骨が変化します。これは逆に考えれば、同じスピードで強化もできるということです。骨が常に新品に生まれ変わっていることを考慮すると、何歳からでも骨は変えられるということ。ポイントは栄養だけでなく、適切な運動刺激を与えることです」

“賢い選択力”を持つ骨は、運動刺激に応じた必要な量しか栄養を取り込もうとしない。そのため、座位中心の生活では、いくらカルシウムを摂取しても骨には吸収されない。先進国で骨粗鬆症が多いのは、こうした証左といえる。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。