長寿社会の救世主・再生医療に挑み続ける

人生百年時代。だが心身が衰えてできないことばかりの長生きはご免だと、誰もが思う。健康長寿のカギを握る再生医療に早くから注力してきた阿部博幸医師が、新たな選択肢として挙げる「幹細胞上清療法」。健康寿命を左右する、その理由を聞いた。

Photo Satoru Seki Text Ichiko Minatoya

人生百年時代。だが心身が衰えてできないことばかりの長生きはご免だと、誰もが思う。健康長寿のカギを握る再生医療に早くから注力してきた阿部博幸医師が、新たな選択肢として挙げる「幹細胞上清療法」。健康寿命を左右する、その理由を聞いた。

左から東京キャンサークリニック理事長の阿部博幸医師、院長の笹田亜麻子医師、細胞培養・研究部長のMinako Abe米国医師。自己細胞による治療の研究と臨床を長く経験してきた、再生医療のエキスパートチームだ。
左から東京キャンサークリニック理事長の阿部博幸医師、院長の笹田亜麻子医師、細胞培養・研究部長のMinako Abe米国医師。自己細胞による治療の研究と臨床を長く経験してきた、再生医療のエキスパートチームだ。

阿部博幸医師が理事長を務める東京キャンサークリニックは、その前身である九段クリニック分院以来、2000年から第三種再生医療の免疫療法に取り組んできた。その中で阿部医師率いる研究チームは樹状細胞を使ったワクチンの開発に成功し、世界14カ国・都市で特許を取得している。

「再生医療のカギを握るのは幹細胞です。我々人間の体は約200種、およそ37兆個の細胞からできています。それらの細胞は寿命が来ると新しい細胞と入れ替わっていきますが、その主役となるのが幹細胞です。幹細胞は自己複製能力と、さまざまな細胞を創り出す能力、この2つを持っています」

※幹細胞上清療法 点滴による投与。通常1~2週間間隔で4~6回を1クールとします。副作用として治療後、稀に熱感、発赤、発疹、掻痒感、皮下出血などの症状が一時的に現れることがありますが、ほとんどの場合、数時間から数日で消失します。治療費(税込):初診料5,500円、1回投与220,000円

エレベーターが開くと、クリニックの想いを象徴する双翼のライオンのロゴがお出迎え。院内は安心して治療を受けられるよう、ゆったりと落ち着ける空間に。
エレベーターが開くと、クリニックの想いを象徴する双翼のライオンのロゴがお出迎え。院内は安心して治療を受けられるよう、ゆったりと落ち着ける空間に。

阿部医師は加齢により起こるさまざまな現象に、幹細胞の減少がかかわっていると説明する。

「生活習慣による酸化ストレス(サビ)と、糖化最終産物(コゲ)の集積が、いろいろな臓器の障害を引き起こします。しかしこれを修復するのに必要な幹細胞が、加齢とともに減少して、修復が間に合わなくなるのです」

加齢や病気、けがによって大量に必要とされる幹細胞。それを増やすことで、病気の治療、さらには予防ができる。これが再生医療だ。2010年前後から再生医療は世界的ブームとなり、多くの研究者が取り組んでいる。

「私たちのチームも、幹細胞の培養方法の研究をはじめ臨床応用に向けてさまざまな研究開発を重ねてきました。その成果が実り、第二種再生医療の自己脂肪由来幹細胞を用いた慢性疼痛の治療を行っています。また、現在は動脈硬化に伴うさまざまな病気のための自己脂肪由来幹細胞治療の開発を行っています」

治療を主とする再生医療だけでなく、東京キャンサークリニックでは予防医療としての再生医療にも力を入れている。

「幹細胞の培養液(上清)を使用する幹細胞上清療法というものがあります。幹細胞そのものを使わないのでセルフリー再生医療と呼ばれています。細胞成分を取り除いた上清のみを用います。上清はフリーズドライにして保存できますので、必要な時に調整して使用します。ですから細胞培養期間などがなくすぐに治療が始められるのが大きな特徴です」

点滴などを行う間、ゆったりと過ごせるソファタイプの処置室。
点滴などを行う間、ゆったりと過ごせるソファタイプの処置室。

幹細胞上清療法に用いられるのは、ヒト乳歯歯髄幹細胞由来の上清液だ。体の各組織には、例えば骨髄なら骨髄幹細胞のように、様々な種類の幹細胞が存在する。なかでも乳歯歯髄幹細胞は増殖率が高く、これを用いた上清液には、細胞の活性を促すさまざまな成長因子、その他の多彩な生理活性物質などのサイトカインが豊富に含まれる。

個室タイプの施術室も用意。
個室タイプの施術室も用意。

「上清というのは、培養液の上澄み部分です。ヒト乳歯歯髄細胞から幹細胞を分離培養し、その上澄み液の中にあるサイトカインや有効成分のみを精製し、濃縮した液を使用します。上清を精製するので、細胞そのものや死細胞、細胞の老廃物といった不要物は一切含まれていません。その人の細胞を取り出して培養して作る幹細胞治療は、オーダーメイドの治療法として非常に素晴らしいものです。それに対してこの幹細胞上清療法は、培養の時間がいらず、治療にすぐにとりかかれるスピードが強みです」

ごくわかりやすくイメージするなら、いつでもすぐに利用できる既成薬といったところか。

医療ミュージアムを作ることが夢の阿部医師が収集しているアンティーク医療器具の一部。
医療ミュージアムを作ることが夢の阿部医師が収集しているアンティーク医療器具の一部。

「この幹細胞培養上清は抗炎症作用、炎症で傷ついた細胞を補修するといった、今起こっている不調に働く効果だけでなく、体内にあるほかの幹細胞を誘導し、必要な個所に集める効果も期待できます。全身の細胞に対して働きかけるので、部位や症状を選ばず使えます」

このため、脳梗塞の後遺症やアルツハイマーといった脳の機能から、糖尿病や心筋梗塞といった血管の機能、肝障害や腎不全など臓器の機能と、幅広い障害の治療に用いることができるほか、アトピー性皮膚炎や更年期障害、リウマチの症状改善も期待できるという。

厚生労働省届出の細胞培養加工施設もあり、万全の体制が整えられている。
厚生労働省届出の細胞培養加工施設もあり、万全の体制が整えられている。

笹田医師によると「なんといっても今後主流になっていく使用法は、老化予防でしょう。不調や病気になってから治療するのではなく、予防的見地から幹細胞上清を利用される方が増えています。一度治療を受けると体感を得られ継続して治療を受けられるというケースもよく見られます。明確な治療目的をもって受けられている方は1~2週間間隔で4~6回を一クール、健康維持など予防目的の方は月1、2回ほど点滴で受けていただきます。まだ病気ではないけれど、何となく若いころのように仕事ができず、不調だという働き盛りの方、更年期障害で体だけでなく気持ちもうつうつとしていた方などにとって、幹細胞上清を使った治療は大きなメリットです。ご本人がまだ気づいていない不調も、放っておけば大病になる前に、老化や損傷した組織の再生を促す再生医療は、まさに健康寿命に欠かせない医療なのです」。

仕事でもプライベートでも、楽しく全力で取り組めるのは、やはり健康な体があってこそ。人生百年時代に定年など関係なく、やりたい仕事をやり、生きがいを持って一生を生ききるために、今後ますます再生医療は注目を浴びるだろう。

「21世紀の医療は間違いなく、予防と再生がキーワードです。ただ単に病気を治して長寿を目指すのではなく、いかに健康寿命を延ばすかが大切で、今後はQOLを向上させるために、医療が発達していくことでしょう。そんな流れの中で、自己修復力を引き出し、欠損した組織や臓器の機能を回復させる手法が期待されることは自明の理。再生医療研究はこの最先端にあります。私どもの研究チームもさらに研究を進めて、より患者様お一人お一人の人生を充実させる医療を提供していきます」

日本国内はもちろん普段であれば海外から飛行機で訪れる患者も多いという東京キャンサークリニック。リピーターの多さが、再生医療に対する期待を物語っている。

●東京キャンサークリニック TEL0120-660-075

※『Nile’s NILE』2021年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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