2年ほど前に初めてISSA氏を診察した時、山口修司院長は驚いた。
「よく踊れるな」と。リハーサルでバク宙の着地に失敗して骨折した10年前の“古傷”が、当時のケガの凄惨さを生々しく物語っていたのだ。
「骨盤が粉砕されて。人の3、4倍頑張ってリハビリに取り組みました。幸い再起できましたが、後遺症との闘いは以後も長く続いたんですよね」
そんなISSA氏が友人に紹介されたのが、当院の再生医療。どんな治療を受けているのだろうか。
「オペ後に骨盤が変形したまま治ったことによる変形性股関節症でした。ただ人工股関節ではなかったので、マッサージと並行して再生医療による治療計画を立てました。股関節に本人の脂肪由来の幹細胞をダイレクトに注入する治療と、PRP(多血小板血漿)という自分の血液の血小板を濃縮した液体で治癒能力を高める療法を組み合わせています。それにより軟骨と、ケガをかばって使わないために萎縮した周辺の筋肉の再生を目指しています」と山口院長。
まだ治療中だが、ISSA氏は「痛みはほとんどなく、股関節の可動域が広がったし、ライブ後の疲れも軽減された」と実感。幹細胞が全身を巡り、弱った部分を自動的に修復するメリットがあるからか、体調も良好だ。
「今後も治療を続けて、今以上のパフォーマンスに力を尽したい。と同時に、再生医療の良さを実体験とともに広めていきたいですね」。今後、再生医療大使としても活動を行っていくというISSA氏である。
再生医療は根治療法
再生医療の核となる幹細胞はどこにあるのか。多く使われるのは、骨髄と脂肪に由来するものだ。より多様な臓器や組織に分化する能力があるからだ。中でも脂肪由来は、採取時の患者への負担が少ない。当院が使うのも、抗炎症作用がある上にトラブルの生じているところに集中して機能する特徴がある脂肪由来の幹細胞を採取・培養したもの。それを静脈注射や局部注射で投与し、患者本人の体に戻す施術である。
「採取・投与各一日の治療で症状が劇的に改善します。あらゆる部位の変形関節症を始め、脳卒中、脳血管障害、糖尿病、肝機能障害、美肌や増毛のような“若返り療法”など、あらゆる臓器、組織に適応があり、基本、根治療法なので根本的に治ります」
山口院長の話を聞くにつれ、夢のような治療だと驚嘆する。それなのになぜ専門クリニックが少ないのか。一つの原因は「厚生労働省が認可に非常に厳しいハードルを設けている」ことにある。
「やりますと手を挙げて、すぐに始められる医療ではない」と話すのは、ASメディカルサポート代表取締役の荒尾慎太郎氏。「論文や施設データ、治療計画書など、膨大な書類が必要です。しかも疾患ごとに認可を取らなくてはいけないので、作業は煩雑を極めます。当社はそこをサポートするプロ集団です。現在、こちらのような『2種』に分類される高度な再生医療に取り組む約50のクリニックと提携しています」。荒尾氏は山口院長の頼れるパートナーと言えそうだ。
及・拡大へのタッグ
ASメディカルサポートの取り組む事業は再生医療のコンサルティングにとどまらない。培養加工施設の運営、化粧品の開発、医療事業資金調達サポート、幹細胞バンキングなど、再生医療に関する全てをカバーする。トピックとして特筆すべきは、費用負担の軽減を視野に入れて、目下、福岡と木更津に国内最大級の幹細胞培養施設を建設していることだ。普及に向けて「速く大量に培養する体制を整える」ことは重要ポイントだ。
「幹細胞を一日百人、千人分と増やしていく時、トラブルを未然に防ぎ、作業効率を上げる必要があります。そこを、AI技術を有するANAPラボにバックアップしてもらいます」
ANAPは若い女性に人気のカジュアルウェアブランド。ANAPラボはその100%連結子会社で、AI技術ではトップレベルを誇る。
「ANAPがネット通販事業を通してIT技術を取り入れた延長戦上で、ラボは例えば画像をスキャンすることで検索ワードを自動生成するシステムなど、AIの技術を応用したシステムの開発や販売などを展開しています。AI技術は業種の壁を楽々越えます。今回は再生医療分野での協業。近々誕生する大規模培養施設では、少ない培養士で大量の幹細胞を培養できるよう、持てる技術を発揮します」とANAP代表取締役社長の家髙利康氏。荒尾氏と二人三脚で明日の再生医療に挑む。両者の思いは一つ、「再生医療をもっと普及・拡大させて、ケガや病気に苦しむ人たちを一人でも多く救う」ことだ。
※『Nile’s NILE』2020年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています