オーナー初年度となった昨年、FC今治は惜しくもJFL(日本フットボールリーグ)への昇格を果たせなかった。しかし岡田氏の表情はいたって晴れやか。「神様の『少しペースを落としてじっくり構えなさい』という計らいかな。実際、上がっていたら、体も心ももたなかったかもしれません」と笑う。そのくらい激務を極めた1年だったのだ。
命がけで走り続けた
「異次元に伸びるチューブの中を懸命に走ってた感じでしたね。夢はバンバン出てくるんだけど、どこまでやれるかわからないまま、考えては走り、走っては考え、本当に必死でした」
スポンサーの獲得、トップチームの強化、育成選手の指導、スタジアムの建設、中国事業……自ら「やる!」と宣言した多くの課題に同時並行的に取り組む毎日は、想像しただけで目が回りそうだ。「多い月には今治―東京間を6往復した」という。
「経営というのは、大枠では監督の仕事と共通するところが多いんです。組織をどう動かすかが眼目ですから。ただスパンが大きく違う。監督の時は次の大会を目指してやっていくので、長くても1年ぐらいのスパン。試合は90分ですしね。一方、経営は5年・10年先を見据えて、今何をやるべきかを考えなくてはいけない。そうするとプレッシャーの種類が違うんですよね。監督業は肩に重い鉛の塊が載っている感じ。筋力で耐えて耐えて、でも終わればバン!とその重荷は取れる。それに対して経営は真綿でジワジワと首が締まっていく感覚。僕の語る夢に共感して集まってくれた従業員や選手、スポンサーの気持ちに報いられるかな、ちゃんと給料を払えるかな、資金繰りがショートしないかな、といったことがすごく気になるので。それでも今まで120人くらいだった観客が2200人に増えたし、ファンの人からたくさんの感動メールをいただいたし、やってよかったと感じています」
リスクを取る覚悟と危機感
岡田氏の夢は「7年後に1万5千人規模のスタジアムを建設する」「2025年にはJ1で常時優勝争いをするチームになる」「組織力を最大化するためのプレーモデル+練習法による『岡田メソッド』を国内外に普及させる」等々、壮大である。周囲の声は多くが「ムリだよ」――。「冷静に分析したら、僕だってムリだと思いますよ。スタートアップの9割は3年以内に潰れる、という不文律もあるし。ただ僕はそのリスク覚悟で1割に残ってやるという強い思いでチャレンジしてる。今までにはない発想で、いろんな仕掛けも打っていく。ある経営者に『大きなリスクを取って挑戦する人たちが世の中を変えてきたんだよ』と言われたけど、その通りだと思う。根底に常に危機感を持ち、その決死の覚悟を見せることで組織を動かす。よく言われるように、私利私欲のない高い志の山に必死で登る背中を見せるのがリーダーでしょう」
岡田氏はまた「決断は腹を括ってやらなきゃいけない」と言う。「負けたらどうしよう」「嫌われたらイヤだ」などとリーダーの心が揺れていては組織も揺れる。「とことん考え抜いて、最後は経験に培われた自分の直感に賭けて、全力でやれるだけのことをやるのがリーダーの腹の括り方。『無』に近い感覚」だと、岡田氏は語気を強める。そうしてリーダーが決断したことだからこそ、社員も感応するのである。
変革あるのみ
岡田氏の今年の目標の第一は「JFLに上がる」こと。「結果を残さないと、お金も周りの人のアテンションも続かない」からだ。 また、「みんなが自ら動き出してくれるような会社にしたいね。そのためには僕は、いつかは社長を譲って会長になるつもりです。みんなには『君たちの力でこの会社を何とかしてくれ』と投げかけています。岡田メソッドの海外展開を本格始動させるなど、新しい挑戦もします」とよどみない。
「それと、ここ『グランサイズ大手町』にももっと通いたい。去年は来てもビジネスラウンジでPCに向かっている状況で。もっともここは物事を考えて決める空間としてもなかなか良いのですが。今年はうまく空き時間を利用して立ち寄りたい。1時間ちょっとジムで汗を流してシャワーを浴び、次の打ち合わせに向かうと、心も体もリフレッシュされますから。あと、欲を言うなら……忙しくてなかなか来られないので、自宅の近くにも、ぜひグランサイズが欲しいんだけどね。そうしたらもっと通えるので。どうかな」
多忙ななか、物事を考えたり体を鍛えたりするグランサイズでの一人の時間――。リーダーとしての判断力やメンタル・タフネスを支える場所にもなっているようだ。
岡田氏のメンタル・タフネスが、サッカー界にどんな変革をもたらすのか。今後も岡田氏の動向から目が離せない。
●問い合わせ グランサイズ各施設まで
※『Nile’s NILE』2016年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています