「愛の精神の実践」に基づいた取り組み
「愛の精神の実践」―創業者・小林富次郎が社是に込めた思いに、ライオンの目指す企業活動の根本が集約される。渋沢栄一が「論語と算盤」なら、小林は「愛と算盤」。万古不易のこの精神は、〝SDGs時代〟の今こそいっそうの輝きを増すようだ。
「昨年策定した中長期経営戦略フレーム『Vision2030』の中で、初めてサステナビリティという言葉が経営戦略に導入されました。SDGsが目指す世界への貢献を見据えた上で、当社のサステナビリティ重要課題・13項目と目標を設定したのです」と言う小和田みどり氏は、サステナビリティ推進部長を任じて2年半、自社の取り組みを社内外に浸透・拡大させていくことがミッションだ。
消費者とともにサステナブルな地球環境へ
重要課題の中でも最重要と位置づける課題は二つ。第一が「サステナブルな地球環境への取組み推進」だ。
「事業所の活動でCO2をゼロにしていく、原料調達に始まり生産、販売、家庭での消費・廃棄に至る商品のライフサイクルにおけるCO2を半減する、といったことは当たり前にやっていくこと。一歩踏み込んで、社会全体のCO2削減につながるカーボンネガティブを実行していきたい。一方で、当社の製品はプラスチックが非常に多いため、廃棄せずに〝循環し続けるプラスチック〟として利用していくことを考えています」
そういった取り組みを「消費者とともにやっていく」のがライオン流。理由は「製品のライフサイクルでCO2と水の排出量を見ると、消費者の項目が非常に多い」こと。CO2が約6割、水が約8割に上るという。「まずメーカーとして、節水や節電に結びつく商品をつくる。例えば洗剤が残りにくくすすぎが1回でよい商品では、1回の洗濯で23ℓもの水が節約できます。ただ依然として2回すすぎをする家庭が6割程度。エコな使い方を情報発信していく必要性を痛感しています。他にも少しの水で浴室のカビの原因菌を除菌するくん煙剤など、節水になる商品がたくさんあるので、今まで以上に環境の視点を強調した告知をしていきたいですね」
小和田氏によると、家庭絡みで排出するCO2は、水の使用も関係するそうだ。家庭で水を使用する洗濯機などの機器や、浄水場、下水処理場で電気が使われるからだ。個人レベルでの節水が社会のCO2削減につながることに思い至る。今後は消費者の節水意識がより高まるよう、家の中でのどんな行動がCO2を排出させるか、モデルハウスを使いCO2量を計測する実証実験を始める予定。さまざまな企業や省庁、自治体、研究機関などとの協業を進めている。
また「資源循環」については、使用するプラスチックの量を減らすために、中身を濃縮することによる容器の小型化や、詰め替え商品の普及に取り組む。一方でライオンは、「事業で使用したプラスチックは回収し、再び事業で活用する」ことを目指す。
例えばハブラシリサイクル。ハブラシは使い続けると汚れを取る力が徐々に低下する。そこで毎月8日を「歯ブラシ交換デー」とし、使用済みのハブラシを回収しリサイクルする活動を行っている。他に詰め替え容器(パウチ)についても、花王と協働で、回収したパウチをまたパウチ化する実験を開始している。
健康な生活習慣づくりを目指して
最重要課題の第二は「健康な生活習慣づくり」だ。オーラルケアや手洗いなどの、清潔衛生行動を中心に習慣化させるための提案を行っている。
「近年、歯周病が全身健康に大きな影響を与えると言われます。オーラルケアをしっかり行うことで、将来の医療費が削減される、というデータも出ています。私たちは歯の健康に資する商品を提供する過程でオーラルケアの機会に格差があると気づきました。中でも憂えるべきは、子どもの貧困問題。実際、貧困家庭では子どもの口の状態はとても悪いのです」
そういった実態を目の当たりにした小和田氏らは、「おくちからだプロジェクト」を立ち上げた。こども食堂や、子どもの貧困問題に取り組むNPOなどと組み、遊びながらオーラルケアの正しい情報を学べるプログラムを提供、実施している。「特に貧困率が高く、12歳児のむし歯の数も1.8本と、全国平均の3倍に上る沖縄県に関しては、どうすれば歯みがきを習慣化できるか産官学連携で、検証を始めている」そうだ。
創業当初からライオンは、商品に「ライオン歯磨慈善券付袋入」という、支持したい慈善団体に寄付する仕組みを取り入れた企業である。この時にはもう、今日流のSDGsへの取り組みは始まっていたのだ。同社が今後、どんな新たな展開を見せるのか、その先進性に期待したい。
●ライオン
TEL03-3621-6211 www.lion.co.jp/ja