光発電によって駆動するシチズン独自の技術「エコ・ドライブ」。機能価値の向上に加え、光を透過させる素材や意匠の進化も重ね、昨年、世界最薄と言われる土佐典具帖紙(とさげんぐじょうし)を天然の阿波藍で手染めした文字板にたどり着いた。土佐典具帖紙は、清流・仁淀川が流れる高知県日高村にある、ひだか和紙が製造。独自の抄紙機(しょうしき)の技術によって、究極の薄さや透明度、均一性を実現させ、古文書や美術品などの文化財の修復に用いられ、世界的に高い評価を受けている。
藍染は徳島県の工房、Watanabeʼsが担当。代表の渡邉健太氏は藍染に魅せられ徳島へ移住し、蓼藍の栽培から染色・製作まで一貫して手掛けている。偶然にも渡邉氏は、ひだか和紙の土佐典具帖紙を染めた経験があり、工程は順調に進み、藍染和紙が文字板に適しているのを実感したという。“天然灰汁発酵建て(てんねんあくはっこうだて)”という伝統技法で染め上げられた藍染和紙文字板は、深くさえた色合いに加え、工芸ならではの魅力にも富む。
この時計は、シチズンのマニュファクチュールとしての真摯(しんし)なものづくりの姿勢と日本の伝統の技が融合した意義だけでなく、もう一つのメッセージも含んでいる。藍染液中の発酵菌は役目を終えると畑の肥やしとなり、次なる蓼藍を育む。その自然なサイクルや、末長く色調を保つ藍染は「エコ・ドライブ」を軸とするシチズンのサステナブルなスタンスとも響き合った。藍染和紙文字板に託されたさまざまな要素が、この時計の唯一無二の魅力を醸成している。
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