創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲが1845年にドレスデン郊外に開いた工房をルーツとするA.ランゲ&ゾーネ。ドイツ・ザクセンのウォッチメイキングの伝統にのっとった名品を数々世に送り出していたが、第二次大戦中に社屋が空爆に遭い、さらに終戦後、東独政府に接収され一時消滅するなど苦難の時代を経験。しかし東西ドイツ統一後の1990年に復興を果たしたことは、ここ半世紀の時計史上で最も喜ばしかった出来事の一つと言っても過言ではない。
1994年には、復興後のファーストコレクションとなる4モデルを発表。中でもオフセットされた文字盤に、ドレスデンの時計製造の伝統と深い関わりを持つアウトサイズデイトを備えた「ランゲ1」は、フラッグシップ的存在となり、機能を加え、仕様を広げながら進化を続けている。この4月に開催されたウォッチズ&ワンダーズでも「ランゲ1」の進化形というべき2モデルが発表された。
まず「ランゲ1・パーペチュアルカレンダー」。「ランゲ1」に初めて永久カレンダー機能が搭載されたのは、2012年に発表された「ランゲ1・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー」だったが、これを踏まえパーペチュアルカレンダー機能に特化した、ブランドとして67個目となる自社製新キャリバーが開発された。
伝統的なパーペチュアルカレンダー製作では、閏年を考慮した4年周期の48カ月車が用いられることが多いが、「ランゲ1」のオフセットされた個性的な表情を崩さないよう文字盤外周に月を示すリングを配し、これに対応した独自の機構を開発。
リング状の月、ディスク式の大型日付、針で示すレトログラード曜日、6時位置の閏年表示はそれぞれ異なる方式を採りながら、全てが切り替わる日が訪れる深夜0時ジャストに作動することも特筆したい。
これには通常よりも大きなトルクを要するため、技術陣は多くの課題を克服し、これを完成させている。7時位置には122.6年間で1日分の誤差しか生じない高精度ムーンフェイズと昼夜表示、スモールセコンドを重ねた。グレー仕上げのシルバー無垢製文字盤とPGケースのハーモニーもラグジュアリーにして印象的だ。
もう一つは「リトル・ランゲ1・ムーンフェイズ」。性別を問わず着用できる、やや小ぶりな直径36.8mmのWG製ケースに、銅の粒子をちりばめた透明なダークブルーのゴールドストーン(紫金石)をシルバー無垢ディスクに重ね、幾千もの星がまたたいているかのような文字盤を配した。
時分表示のインデックスにもWG製の星が輝き、ダークブルーのムーンフェイズディスク上では、WG製の月の周囲を628個の星が取り囲む。〝明るい光が降り注ぐ魅惑の月夜〞というコンセプトを具現化した優美さに加え、122.6年間に1日分の誤差しか生じない高精度ムーンフェイズに、精緻な機構にこだわるA.ランゲ&ゾーネらしさが感じられる。
妥協なきウォッチメイキング、その境地を伝えて余りある2作である。
●A. ランゲ&ゾーネ
TEL 0120-23-1845
※『Nile’s NILE』2021年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています