1925年にパリで開催された万国博覧会は、アールデコ博の別称で知られている。19世紀末から20世紀初頭に流行したアールヌーボーに代わるデザイン潮流として、第1次大戦後に脚光を浴びたアールデコ。幾何学的でモダンな意匠は、この後、世界的な広がりを見せていく。
そんなアールデコの豊饒な薫りが立ち込める1931年、後にジャガー・ルクルトを代表するコレクションへと成長する「レベルソ」が誕生した。イギリス統治下のインドでポロを楽しむ英国人将校から、競技中に風防や文字盤を保護する時計を要望されたことで案出されたのは、知られた話かもしれない。
黄金比にのっとったレクタンギュラーケースを、台座に当たるキャリアの上で、支軸をスライドさせて反転させるメカニズムは、風防や文字盤を守るというミッションを完璧に遂行した。ムーブメントの精度や信頼性も折り紙付き。加えてそのデザインも、端正にしてエレガント。最近アールデコスタイルをリスペクトしたデザインの時計をしばしば目にするが、「レベルソ」はまさにアールデコの申し子というべきDNAを有していることも特筆しておきたい。
そんな「レベルソ」の誕生90周年を彩るプロジェクトが、今、進んでいる。その中でも、ひときわあでやかな「レベルソ・ワン・プレシャスフラワー」の4モデルがベールを脱いだ。
女性用の「レベルソ・ワン」をベースに、1920年代の装飾用ジュエリーやバニティケースをインスピレーションソースとして、エナメル装飾、エングレービング、ジェムセッティングなど、ジャガー・ルクルトが誇るメティエ・ラールR(レア・ハンドクラフト™)の粋を凝らし、ピンクアルム、ホワイトリリー、ブルーアルム、パープルアルムの4つの花が、反転ケースの裏面に優雅かつ、かれんに描き出された。
時刻表示機能のある表面には、フローラル数字のインデックスを配したマザー・オブ・パール文字盤を採用。それぞれの花の色調に合わせたアリゲーターストラップに至るまで、一分の隙もなく美が具現化されている。
「レベルソ」の歴史をひもとくとデビュー間もないころから、特注ラッカー仕上げ文字盤を導入したり、ケースバックにエングレービング、エナメル装飾を施すなど、パーソナライズすることも積極的に行われていたという。反転ケースという他に類を見ない機構が、工芸性や審美的な可能性も広げたわけだ。またペンダントやハンドバッグクリップにコンバートできる「レベルソ」も登場させていた。このような逸話は「レベルソ」がアートやクラフツマンシップとの親和性が高く、また女性の輝かしいライフスタイルに寄り添うものであったことを示している。
「レベルソ・ワン・プレシャスフラワー」は、そんな「レベルソ」の血統を受け継ぎ、さらなる高みへと進化させたものと言っていい。それぞれ10ピースのみの限定製作。これを手にする限られた女性を、うらやまずにはいられない。
●ジャガー・ルクルト
TEL 0120-79-1833
※『Nile’s NILE』2021年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています