時計界で究極を追い続けるリシャール・ミルが、そんなアスリートに魅了されたのは2008年。限界の先への情熱を持つ二人の男が出会い、2年後、RM027が誕生した。「君と時計を作りたい」というリシャールからの提案に、ラファは最初、難色を示したという。わずか1gの重みがプレーに影響するテニス。事実、それまでラファの手首に時計がはめられたことはなかった。リシャールは2年後、重さを感じさせない軽さ、抜群の装着感、そしてタフな試合条件下でも精度を極める、前代未聞のトゥールビヨンウオッチを捧げた。この年、ラファはRM027を相棒に、全仏、全英、全米の三つのトーナメントを制覇。その後5年にわたり全仏の優勝杯を、リシャール・ミルの時計をはめて掲げ続けた。そして今年、新作RM027-03を腕に、3年ぶり10度目の優勝を果たし、生きた伝説になった。
2010年初夏。全仏オープンテニス開催中。会場内に設置されたリシャール・ミルのレセプションルームに、ラファエル・ナダルが登場した。集ったプレス関係者の視線は、彼の右腕に寄り添う、誕生したばかりのRM027に釘付け。と、おもむろにラファが時計を外して、こちらにポンと投げてよこした。相手は、精巧なトゥールビヨンを備えた超高級メカニカルウオッチ。慌てて出した手のひらに、羽のように軽いオブジェがふわりと舞い降りた。自分の重量感覚が狂ったかと感じる非現実的な軽さ。思わず目を近づけてのぞき込むと、透明なガラスの向こうに、トゥールビヨンが息づく実に美しく繊細なムーブメントがあった。
エクストリームを追求するウオッチメーカーが、同じくエクストリームを追い続けるテニスプレーヤーと共に作り上げた、奇跡のウオッチ。タフなプレー中でも、精度を保持した耐久性と装着性を兼ね備えるという、常識的に考えたら実現不可能な取り組みに、リシャールはラファの協力を得つつ、2年をかけて取り組んだ。いくつかの試作品が、ラファのパワープレーの中でバラバラになったこともあった。航空宇宙産業やF1でも利用される密度2.55mg/cm3というリチウム合金でトゥールビヨン・ムーブメントの柔軟性と衝撃抵抗を高め、その究極の精度を弾性と強度を併せ持つカーボンコンポジットのケースで完璧に保護。裏ぶたとミドルケースを一体化し、本体わずか13gという信じがたい軽量化を実現。こうした取り組みを経て、時計史にその名を永遠に残すことになるRM027が誕生したのだ。
「コラボレーションとは、既存の時計をつけてもらい、一緒に写真を撮ることではない。オルロジュリーの未来のビジョンの糧となるものを二人で作りたかった。精度、性能、軽さにおけるエクストリームな追求という挑戦に、我々は挑み、そして勝ったのだ」(リシャール・ミル)
その反響と評価はすさまじく、限定50本は即完売。2013年には、ケース内にサスペンションムーブメントという画期的な構造を備えたRM27-01が登場。2015年には、自社開発のカーボンTPT® を駆使し、ミドルケースと地板を完全一体化させ、さらなる剛性と耐衝撃性を強化したRM27-02を発表。そして、よりパワーを増すラファのテニスに共鳴するかのごとく、今年は、1万Gという驚異の衝撃からムーブメントを守る革新的なケースと、クオーツTPT® が生み出す、スペイン国旗を彷彿させる鮮やかな色合いのベゼルを備えた、最新作RM27-03が誕生。こちらも、発表段階で、世界限定50本は注文が殺到。その誕生と同時に幻のピースになった。並行して、トゥールビヨンを入れないRM035シリーズも2011年を皮切りに3本がリリースされた。
時計界きってのアバンギャルディストのリシャール・ミルと、世界最高峰のアスリートのラファエル・ナダルによる奇跡のウオッチ・シリーズ。エクストリームな作品集だ。
●リシャールミルジャパン
TEL 03-5807-8162
※『Nile’s NILE』2017年8月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています