マニュファクチュール・コンタンポレーヌ・デュ・タン――コンテンポラリーな時計工房を意味するフルネームの頭文字を取ったMCTが設立されたのは2007年のことだ。創立メンバーには、著名なジュエリーブランドのスペシャルタイムピースプロジェクトに参画していた辣腕(らつわん)ウオッチクリエーターらが名前を連ね、翌2008年に発表された「セクエンシャル ワン」は、外観も機構も過去に類を見ないものだった。
複雑な内部をあらわにしたオープンフェースのセンターには、C字形のレトログラード式ミニッツ表示を装備。このミニッツトラックの切れ目の部分には、時を示すアラビア数字が大きく表示されている。この数字はプリズムと呼ばれる5本の三角柱で構成され、あるタイミングで数字が切り替わる仕掛けだ。
もう少し具体的に説明していこう。このページに紹介しているモデルは、現在時刻9時17分あたりを示している。このまま分針が進んで10時ちょうどになると、分針は0復帰すると同時に、C字形のジャンピングアークと呼ばれるミニッツトラックも90度反時計回転する。すると、6時位置にアラビア数字の10が顔を出す。11時には、ジャンピングアークがさらに90度回転し、3時位置に11が現れ……という動きが続く。つまり毎正時ごとに、ムーブメントによるドラマチックなページェントが繰り広げられるのだ。その動きは高級時計ならではの精緻(せいち)さにあふれ、優雅でさえある。それでいて、時刻が一目で分かる視認性の高さも押さえられている。
では、5本のプリズムはいつ切り替わるのか? 実は9時30分になると、3時位置のプリズムが回転し始め、数分かけて11にチェンジし、1時間半後の登場の準備を整えるのだ。すでにお察しの通り、12時位置に12・4・8、9時位置に1・5・9、6時位置には2・6・10、3時位置には3・7・11が潜んでいる。
このオリジナルと言うべき「セクエンシャル ワン」のDNAを受け継ぎ、よりモダンにアップデートされたのが「セクエンシャル ワン S110」である。オープンワークを施したブリッジを改良し、複数の階層からなる自社製ムーブメントMCT-S 1.0をより大胆かつ印象的に表現。その姿は、ニューヨークの歴史的なキャストアイアン建築に見られる鉄の非常階段を彷彿(ほうふつ)させ、ラギッドでエッジな雰囲気を醸し出す。軽量かつ丈夫なグレード5チタンをケースに採用したことも、この時計が活躍するシーンを広げている。
MCTは創立からわずか10年の間に、コンポーネンツ製造部門や組み立て部門、さらに精密機械の開発・検証に特化した研究所などの垂直統合を進め、独創的なウオッチメーキングの拡充を図ってきた。それが、自社製ムーブメントや、革新的なニューモデルの展開につながってきたことは間違いない。
MCTは、ハイエンドなコンプリケーションウオッチの未来をリードし続ける。
モントレソルマーレ TEL03-3833-4211
※『Nile’s NILE』2017年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています