オートオルロジュリー、直訳的に言うなら“高級腕時計”と呼ばれるカテゴリーがある。機構的にも優れ、外装にもプラチナやゴールドなどの素材を用い、クラフツマンシップにあふれる仕上げが施されたもの――とでも定義したらいいだろうか。
リシャール・ミルを、この“オートオルロジュリー”にカテゴライズするのは正しくない。リシャール・ミルは、これまでの常識を覆すような耐久性を持ったトゥールビヨンや、航空宇宙産業でしか使われていなかった先端的な素材を時計業界で初めて採用するなど、既存の腕時計の枠に収まらない独創的なモデルを発表してきた。リシャール・ミル自体が、一つのカテゴリーとなって、かつてない領域へと踏み込んでいるのだ。そんなリシャール・ミルの新たな進化を示すモデルが「RM 68-01 トゥールビヨン シリル・コンゴ」である。
シリル・コンゴは、パリを拠点とするグラフィティアーティストで、20年以上にわたり世界のグラフィティアート界をリードし続けてきた。ストリート感覚の一方、洗練されたスタイルを特徴とする彼と、リシャール・ミルとのコラボレーションが「RM 68-01」で実現した。リシャール・ミル本人は、こう説明する。
「私の狙いは、時計の心臓部にシリル・コンゴのアートを引き込むことでした。彼はムーブメントやトゥールビヨン、ケースやダイヤルも使い、時計製作技術の壁を乗り越え、自分自身の芸術を完成させたのです」
アートピース「RM 68-01」は、アシンメトリーなフェースに合わせ、アシンメトリーに設計されたトゥールビヨン・ムーブメントを搭載。そのブリッジや香箱などの微細なパーツを始め、文字盤外縁のフランジ部分に、彼のアートペイントが施された。透明な文字盤パーツ上にも、モデル名やシリル・コンゴのサインが手描きされている。通常は巨大な壁に描かれるグラフィティアートの世界が、約5㎝四方の極小の世界でも、色彩豊かに躍動しているのが分かる。
このペイントのために、まずチタン製パーツに完璧に付着し、変質することなく、組み立てと分解にも持ちこたえる塗料を開発。これを吹き付けるための特殊なエアブラシも開発された。これを用い、キャリバーのバランスを崩さないよう、あらかじめ計算された重量に従い、塗料を一滴ずつ、細心の注意を払いながら、吹き付ける作業をシリル・コンゴ自身が行った。「作業を軌道に乗せるまでに1年を費やしました」と、シリル・コンゴは振り返る。
「わずか数ミリ、あるいはそれ以下のパーツにダイレクトにペイントするにあたり、視覚効果を吟味しながら、ムーブメントのバランスを崩さないように塗料を最小限に抑えるよう気を配り、作業を進めました」
こうした気の遠くなるようなプロセスを経て「RM 68-01」は、タイムピースとアートとの完璧な融合を成し遂げた。リシャール・ミルは、またしても、誰も踏み込んだことのない領域へと到達したのである。
●リシャールミルジャパン TEL03-5807-8162
※『Nile’s NILE』2016年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています