1999年とは、いかなる年だっただろうか? この年、人類が滅亡するという予言が世間を騒がせたことは今や笑い話だが、千年紀の変わり目を控えた終末観のような空気と、新時代へ向けた期待がないまぜになった独特な雰囲気が世界を覆っていたのは間違いない。
時計業界に関して言えば、クオーツショックを乗り越えるべく1980年代から始まった機械式時計の復興が、技術的にもビジネス的にも成熟の時を迎えつつあった。
各ブランドは、ミレニアムを大きなビジネスチャンスと捉え、拡大路線へとアクセルを踏み込もうとしていた。それが成熟を超えて、爛熟の時代を引き寄せることになるのだが……。
フランス出身の独立時計師フランソワ-ポール・ジュルヌが、ジュネーブにモントル・ジュルヌ社を設立し、自身の名を冠したブランド、F.P.ジュルヌをスタートさせたのも、1999年のことだった。今年は、それから20周年の節目の年に当たる。しかし、ジュルヌ氏本人は、アニバーサリーに対しては、至って恬淡な様子だ。
「99年にモントル・ジュルヌ社を設立し、プレタポルテのウォッチを作り始めたわけですが、それ以前から受注品の製作は続けていましたからね。そこから数えれば、もう40年近くになるのですから」
20年は単なる通過点に過ぎない、ゴールはまだ先の先。そんなアグレッシブな思いを、その言葉の端ににじませた。