BASEL WORLD2019

2019年3月21日から26日までの6日間の日程で、バーゼルワールド2019が開催された。 昨年来、この世界最大のウォッチ&ジュエリーショーが危機的な状況に陥り、 さまざまな対応が採られ始めているとの情報も聞こえてきていた。 そんな中で開催された注目のフェアの状況をお伝えする。 エキシビション主催者の苦悩の一方、新作からはウォッチの未来形も見えてきた。

Photo Takehiro Hiramatsu(digni) Text Yasushi Matsuami

2019年3月21日から26日までの6日間の日程で、バーゼルワールド2019が開催された。 昨年来、この世界最大のウォッチ&ジュエリーショーが危機的な状況に陥り、 さまざまな対応が採られ始めているとの情報も聞こえてきていた。 そんな中で開催された注目のフェアの状況をお伝えする。 エキシビション主催者の苦悩の一方、新作からはウォッチの未来形も見えてきた。

BASEL WORLD2019

バーゼルワールド、日はまた昇るか

危機に瀕しているバーゼルワールド

102年の歴史を持つ「世界最大のウォッチ&ジュエリーショー」バーゼルワールドが、揺れている。

フェア100周年を4年後に控えた2013年、会場のバーゼルメッセを大規模改装以降、出展ブランドは約1500、来場者も約15万人を数える規模となった。リーマンショック以前に出展ブランドが2100を超えたことには及ばないものの、順調な発展を印象付けていた。

しかし、2015年ごろから出展ブランド、来場者ともに陰りが見え始め、昨年は「激減」との報道も。ついにはスイス時計業界の最大勢力スウォッチ グループが離脱を発表。雪崩を打ったかのように、多くのブランドがバーゼル不参加を表明するに至った。

出展料の高騰、出展ブランドの声に耳を貸さない主催者サイドへの不満、また大規模展示会に依存するマーケティングの限界を指摘する声もあった。

そんな状況下、3月21日から26日の日程で、今年のバーゼルワールドが開催された。スウォッチ グループの各ブランドがブースを並べた空間は、プレスセンターやレストランに姿を変えていたが、スペースを持て余している印象はぬぐえなかった。ジュエリーブランドが主に出展していたホール2はクローズされ、例年歩きづらいことさえあった会場内は、常時スムーズに移動できる程度の混み具合……。

最終日のクロージング・プレスカンファレンスでは、バーゼルワールドの立て直しを任され、昨年マネージング・ディレクターに就任したミシェル・ロリス・メリコフ氏から衝撃的な数字が明かされた。出展ブランド数520、20%減。来場者数8万1200人、22%減。フェアの後退感は鮮明だった。

同時にメリコフ氏は、ホール2の再開、ネットやデジタルプラットフォームへのさらなる対応など、さまざまな改革案も示し、多くの声に耳を傾けるスタンスを強調した。今年を“底”としてV字回復はあり得るのか?

一方、スウォッチ グループはといえば、バーゼルにかぶせるかのように3月19日から26日の日程で、リテール向けのエキシビションをチューリッヒで開催し、5月にはきわめて限定的な形でのプレス向け発表会を行う。果たしてスウォッチ グループが、バーゼルに復帰する可能性はあるのか? 今後の動向を注視しておきたい。

しかし、ネガティブな情報ばかりではなかった。独立時計師やインディペンデント系スモールブランドからは、今年のバーゼルでは例年以上に商談が充実していたという声も聞かれた。あるイタリアン・ウォッチブランドのディレクターは「出展費用は実はこれまでとほぼ変わりがなかったが、来年から下がるという情報もあり、期待している。それよりも、主催者サイドの態度がかなり柔軟になったことは歓迎したい」と語ってくれた。

またバーゼルメッセの目の前にあるハイペリオンホテルでは、これまでにもいくつかのブランドが新作発表会を開催してきたが、今年は35ブランドの勢力に発展してきたことも報告しておきたい。

フェアは迷走する。しかし時計は進化する。

バーゼルワールドの迷走とは裏腹に、各ブランドからの新作は、なかなか見応えがあった。ゼニスは2017年に、従来のヒゲゼンマイを用いたテンプに代わる、全く新しいシリコン製オシレーションシステム(精度調整機構)を開発し、限定10モデルを発売したが、これを発展させレギュラーモデル化。

またタグ・ホイヤーは、カーボンコンポジット素材によるヒゲゼンマイを開発し、自社製キャリバーによるトゥールビヨンモデルに搭載したほか、リニューアルされた「オータヴィア」の一部のモデルにも採用した。今後、このヒゲゼンマイも量産化が可能だという。これらは、腕時計を次なるステージへと導く革新的な動きと映った。

ブルガリは世界最薄機械式クロノグラフを開発し5度目の世界記録を樹立。シチズンは昨年技術発表した世界最高精度の年差±1秒のエコ・ドライブムーブメント「キャリバー0100」を搭載したモデルを製品化。これらの技術力にも目を見張った。

「何も変えずに全てを変える」というコンセプトで生まれ変わったシャネル「J 12」も興味を引いた。パテック フィリップ、ロレックスは、王道的な風格を感じさせるモデルをラインアップ。セイコーやカシオは、和の匠たくみの技術によるジャポニスムの粋を打ち出した。

腕時計の進化を進めた二人の功労者

バーゼルワールドの会場で、ウブロ再活性化の立役者で、ゼニス、タグ・ホイヤーも指揮したジャン・クロード・ビバー氏に出会った。昨年11月、執行権のないLVMHウォッチメイキングディヴィジョン会長に就任、引退も取り沙汰されたが、後進の育成やアドバイザー的な動きを続けていくという。前述したゼニス、タグ・ホイヤーの革新機構の開発は、氏のリーダーシップの下で進められた。

1980年代初頭にブランパンで機械式腕時計復興を先導して以来、この時計界の巨人の功績がいかに大きかったかことか。

ビバー氏の下で拡充が図られたラ・ショー・ド・フォンにあるタグ・ホイヤーのファクトリーを、今回のフェア期間中に訪ねた。眼目は、新開発のカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイの製造現場。シリコンウェハーを特殊なオーブン内で熱処理し、カーボンを付着させる技術により、一度に300個以上の製造が可能だという。この最先端技術は、LVMHのタイムピースに飛躍的な進化をもたらした天才的技術者で物理数学者でもあるギィ・セモン氏と、その研究チームが開発した。

ゼニスの新オシレーションシステムもセモン氏によるものだ。ビバー氏とセモン氏という不世出の二人が手を組んで推進してきたウォッチの進化に改めて敬意を表するとともに、こうした動きが、ウォッチエキシビションにも有効な示唆を与えることを祈らないではいられなかった。

BASEL WORLD2019 多彩なラインアップ

スノーセッティングの高貴な輝き PATEK PHILIPPE

Twentỹ4 オートマチック ハイジュエリー自動巻き PATEK PHILIPPE
Twentỹ4 オートマチック ハイジュエリー自動巻き
ケース径36㎜、RGケース×RGブレスレット

昨年10月に発表された新生「Twenty˜4 オートマチック」。1999年にアクティブな現代女性のために誕生し、大きな支持を集めたレクタンギュラーケースの「Twenty˜4®」のDNAを受け継ぎなから、ラウンドケースに自動巻きのキャリバー324SCを搭載したこのニューフェースは、たちまち世の女性たちを虜にした。

そのハイジュエリーバージョンが登場。ローズゴールドのケースとブレスレット、そして文字盤に至るまで、3238個(計17.21ct)のダイヤモンドが敷き詰められた。直径の異なるダイヤモンドをランダムに、しかも可能な限り表から金属が見えないようにセットする、高度なスノーセッティングの技法によってもたらされた輝きは、ラグジュアリーにして気品に満ちあふれている。

●パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
TEL03-3255-8109
www.patek.com

官能的で洗練された“蛇”の誘惑 BVLGARI

セルペンティ パッリーニクオーツ ブルガリ
セルペンティ パッリーニクオーツ
ケースサイズ40㎜(縦径)、WGケース×PGブレスレット

史上最薄機械式クロノグラフを発表し5度目の世界記録を樹立する一方、“Born To Be Gold”をコンセプトに、女性用のアイコンコレクション「セルペンティ」をアップデートするなど、ウォッチメイキングとジュエラーならではの実力をまざまざと見せつけたブルガリ。

その中でも、この「セルペンティ パッリーニ」の存在感は格別。WG製ヘッドにはブリリアントカットダイヤモンドを敷き詰め、目にはエメラルドをセット。口を開ければ、そこに時計が隠れているシークレットウォッチ仕様で、ダイヤルにもダイヤモンドをセッティング。しなやかに手首に絡みつくボディはPG製。WG製テールにもダイヤモンドをあしらった。

官能的な中にポップなタッチを添え、洗練を極めた完成度は、ブルガリならではだ。

●ブルガリ/ブルガリ ジャパン
TEL03-6362-0100
www.bulgari.com/ja-jp/

キャリバーからダイヤまで完璧を期すスタンスROLEX

オイスターパーペチュアル デイデイト 36自動巻き ロレックス
オイスターパーペチュアル デイデイト 36自動巻き
ケース径36㎜、YGケース×YGブレスレット

ロレックスを代表するエグゼクティブライン「オイスター パーペチュアル デイデイト」。その36㎜サイズの新作が登場した。

「デイデイト 36」では初めて、自社開発・製造した新世代キャリバー3255を搭載。公的な精度認証であるCOSCよりも厳しい社内基準を設け、ケーシングされた状態で−2~+2秒という高精度を実現。多くのバリエーションが発表された中で、これはYGケース&ブレスレットに、鮮やかなターコイズダイヤルを採用したタイプ。

ベゼルには52個、アワーマーカーにも56個のダイヤモンドをセット。ダイヤモンドについても社内基準を設け、内包物がない最高カテゴリー、IFカテゴリーで、米国宝石学会のカラー基準でDからGに分類される最も無色に近いものを使用している。全てにおいて万全を期すロレックスのプライドを見る思いがする。

●日本ロレックス
TEL03-3216-5671
www.rolex.com/ja

カラーストーンが奏でる贅沢なグラデーション HUBLOT

ビッグ・バン ウニコ キングゴールド ウブロ
ビッグ・バン ウニコ キングゴールド
レインボー自動巻き、ケース径45㎜、キングゴールドケース×アリゲーター+ラバーストラップ

フェラーリやベルルッティとのパートナーシップモデル、またアーティストとのコラボもバリエーションを加え、サファイアクリスタルケースも進化……などなどウブロの勢いはとどまるところを知らぬかのようだ。

ジュエリーウォッチの完成度も、見事というほかない。このモデルでは、やや赤みの強い18Kキングゴールドのベゼルに48個、ケースに176個、文字盤外周とインデックスに212個のルビー、ピンクサファイア、アメシスト、ブルーサファイア、ブルートパーズ、ツァボライト、イエローサファイア、オレンジサファイアがセットされ、「レインボー」の名の通り、美しいグラデーションを描き出す。

これだけのカラーストーンをそろえるのは容易ではない。ストラップまでも、グラデーション仕様という徹底ぶりも、ウブロらしさだろう。

●LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ
TEL03-5635-7055
www.hublot.com

60年代のスピリットを華麗にアップデート CHOPARD

ルール・ドゥ・ディアマン ショパール
ルール・ドゥ・ディアマン
自動巻き、ケース径30㎜、WGケース×アリゲーターストラップ

社会的、文化的な変革が訪れ、若い層やファッション感度の高い顧客がジュエリーを求めるようになった1960年代。そんな時代の空気を捉え1969年にショパールは、ラピスラズリ、マラカイトなどの鉱石やハードストーンを文字盤に採用したジュエリーウォッチコレクションを発表。

そのオリジナルへのオマージュとして、「ルール・ドゥ・ディアマン」から新作が登場した。その中のオパール文字盤仕様は、複雑で深い色調が魅力。文字盤の周囲には、メゾンショパールで培われた“クラウンセッティング”により、合計4ctを超えるダイヤモンドがセットされ、存分に光を取り込みながら優雅にきらめく。

パワーリザーブ約42時間の自動巻きキャリバーを搭載することも特筆したい。60年代のスピリットが、刺激的かつ華麗によみがえった。

●ショパール ジャパン プレス
TEL03-5524-8922
www.chopard.jp

新生「J12」の希少なオールブラック CHANEL

J12 エディション ノワール シャネル
J12 エディション ノワール
自動巻き、ケース径38㎜、高耐性ブラックセラミックケース×高耐性ブラックセラミックブレスレット、世界限定55本

何も変えずに、全てを変える――このコンセプトの下、デビュー20年目を迎えた「J12」が生まれ変わった。

ケースのフォルムやダイヤルデザイン、ブレスレットの駒の形状など、オリジナルのDNAを損なうことなく外装の約70%をアップデートし、より洗練された印象に。

大きな変更点としては、資本参加する新鋭のムーブメントメーカー、ケニッシ社による自動巻きムーブメントを搭載したこと。またセラミックの製造技術の進化により、モノブロックケース化され、シースルーバック仕様となった。

この「J12 エディション ノワール」は、ベゼルにバゲットパターンのセラミックを配したオールブラック仕様で、55本が製造される。新生「J12」のフレッシュさやオールブラックのクールさに加え、希少性の高さも魅力的だ。

●シャネル(カスタマーケア)
TEL0120-525-519
www.chanel.com

ベントレー創業100周年を祝うコラボモデルの存在感 BREITLING

プレミエB01 クロノグラフ42 ベントレーセンテナリー リミテッドエディション ブライトリング
プレミエB01 クロノグラフ42 ベントレーセンテナリー リミテッドエディション
自動巻き、ケース径42㎜、レッドゴールドケース×レザーストラップ、世界限定200本

2002年以来、ベントレーモーターズとのパートナーシップを継続してきたブライトリング。新体制発足後、2回目のバーゼルとなった今回、コレクションを整理・拡充する中で、1940年代のエレガントなDNAを受け継ぐ「プレミエ」コレクションから、ベントレーの創業100周年を記念する限定モデルが登場した。

レッドゴールドケースにブライトリングのフラッグシップと言うべき自社製キャリバー01を搭載し、文字盤にはベントレー初期の名車1929年型ブロワーのダッシュボードにも用いられたニレ材を採用。専用のレザーストラップには、ベントレーのシートにインスパイアされたパターンとステッチが施されている。

両者がシェアするラグジュアリーな価値観や、エンジニアリングへの思いが、一つに溶け合った。

●ブライトリング・ジャパン
TEL03-3436-0011
www.breitling.co.jp

水陸の伝統を一つに昇華させたクロノグラフ TUDOR

ブラックベイ クロノ S&G TUDOR
ブラックベイ クロノ S&G
自動巻き、ケース径41㎜、SSケース×SS+YGブレスレット

2018年秋、正式に日本上陸を果たして以降、注目度急上昇中のロレックスのファミリーブランド、チューダー。

この「ブラックベイ クロノ S&G」は、1950年代のダイバーズウォッチから着想を得たダイヤルやディテールを採用しながら、モータースポーツとのつながりを意識したクロノグラフ仕様となっており、チューダーの水陸の伝統が一つに溶け合った一本。

搭載するマニュファクチュールキャリバーMT5813は、精巧なコラムホイールメカニズムや、垂直クラッチを採用し、耐磁性に優れたシリコン・バランススプリングを備えるなど、信頼性も高い。パワーリザーブは約70時間、200mの防水性を誇る。チューダーの人気に拍車をかけそうなモデルである。

●日本ロレックス
TEL03-3216-5671
www.tudorwatch.com/ja

名機誕生50周年に示す技術力の到達点 ZENITH

デファイ ダブルトゥールビヨン ゼニス
一昨年、ゼニスは革新的な二つのモデルを発表した。一つが「デファイ ラボ」。ヒゲゼンマイによる調速脱進機に代わる、全く新しいオシレーションシステムを17世紀以来約340年ぶりに開発。2019年これをブラッシュアップし、毎時12万9600振動という超ハイビートな「デファイ インベンター」としてレギュラー化。

もう一つが「デファイ エル・プリメロ21」。毎時3万6000振動のゼニスの名機「エル・プリメロ」に、その10倍の毎時36万振動のクロノグラフ機構を加え、100分の1秒計測を可能にした。2019年、これをダブル・トゥールビヨン化。8時位置に1分で1回転するベースキャリバー用、10時位置に5秒で1回転する100分の1秒クロノグラフ用のトゥールビヨンを搭載。

名機エル・プリメロ誕生半世紀の節目に、ゼニスは記念碑的技術進化を達成した。

●LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ゼニス
TEL03-5677-2091
www.zenith-watches.com/ja_jp

カーボンコンポジット製ヒゲゼンマイを史上初搭載 TAG HEUER

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02T トゥールビヨン ナノグラフ
タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02T トゥールビヨン ナノグラフ
自動巻き、ケース径45㎜、チタン+PVDケース×カーフスキン+ラバーストラップ、世界限定500本

1月のジュネーブで先行発表されていた話題のモデルが、バーゼルで正式にベールを脱いだ。

近年、戦略的価格のトゥールビヨンが注目を集めているタグ・ホイヤーだが、このモデルの最大のポイントは、従来のエリンバー(鉄、ニッケル、クロム、マンガンなどによる合金)製のヒゲゼンマイに代わり、カーボンコンポジット製ヒゲゼンマイが採用されたことだ。

タグ・ホイヤー始めLVMHのタイムピースに大きな技術的進化をもたらした天才技術者、ギィ・セモン氏のチームで新たに開発されたものだ。耐磁性かつ軽量で重力や衝撃の影響をきわめて受けにくく、完全な同心円状の振動が得られ高精度も期待できる。

これを史上初めて搭載したメモリアルなモデルというだけでなく、スポーティーでクールなルックスも大いにそそる。

●LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー
TEL03-5635-7054
www.tagheuer.com

最も黒い物質が創り出す究極のミニマリズム H. MOSER & CIE.

H.モーザー ベンチャー・コンセプト ベンタブラック
ベンチャー・コンセプト ベンタブラック
手巻き、ケース径39㎜、RGケース×アリゲーターストラップ

文字盤上には、インデックスもミニッツマーカーも、ブランドロゴさえもない。そこにはただピュアな文字盤があるのみ。H.モーザーがミニマリズムの哲学を追求したコンセプトシリーズは、今やブランド名を書くまでもないほどに、H.モーザーの“顔”的な存在となってきた。

これまでにも、グレー、ブルー、グリーンなどいくつかの文字盤バリエーションを発表してきたが、今回採用されたのはベンタブラック。世の中で最も黒いとされる物質だ。

垂直に並んだカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)からなり、可視光の99.965%を吸収する。その性質を生かし、これまでは天体望遠鏡やステルス機などに用いられてきたという。これを文字盤に採用することで、そこにブラックホールが出現したかのような、究極のミニマルな世界が具現化された。

●イースト・ジャパン
TEL03-6274-6120
www.h-moser.com

新興フレンチブランドが魅せる斬新な創造性 PHENOMEN

PHENOMEN アクシオム フルチタニウム ブラックダイヤル
アクシオム フルチタニウム ブラックダイヤル
手巻き、ケースサイズ47×42㎜、チタニウムケース×アリゲーターストラップ、世界限定60本

プジョーに在籍後独立し、プロダクトデザイナーとして活躍していたアレクサンドル・メイエー氏と、高級ムーブメントサプライヤー、ラ・ジュー・ペレ社で開発部長を務めたシルヴァン・ヌリソン氏とが出会い、2017年フランスのブザンソンで設立された新興ブランド、フェノメン。

その第1弾モデル「アクシオム」は、往年のフェラーリやマスタングを想起させるクリエーティブで遊び心あふれるフォルムに、独創性の高いキャリバーを搭載したモデル。トップ部にテンプを配し、ドライバーが時刻を見やすいよう、傾斜のついたジャンピングレトログラードアワー&レトログラードミニッツを備える。

斬新でありながら人間工学にも配慮、ツインバレル式でパワーリザーブは約100時間など、本格派。新たな創造性を大いに歓迎したい。

●オールージュ
TEL03-6452-8802
phenomen.jp

年差1秒、世界最高精度という金字塔 CITIZEN

ザ・シチズン AQ6010-06A
ザ・シチズン AQ6010-06A
ソーラー発電式クオーツ(エコ・ドライブ)、ケース径37.5㎜、WGケース×クロコダイルストラップ、世界限定100本

1年という時間を秒に換算すると315万3600秒。その間に1秒の誤差しか生じないとしたら、これは偉業というほかない。昨年創業100周年記念として、シチズンはソーラー発電式のエコ・ドライブムーブメントで年差±1秒を誇る「キャリバー0100」を発表。

2019年ついに、その製品化にこぎ着けた。クオーツムーブメントの心臓部には、従来の音叉(おんさ)型水晶振動子に代わり、直方体に近いATカット型水晶振動子を採用。音叉型の約256倍に当たる8.4MHzの高振動が得られ、温度や重力などの影響に強く、経時変化しにくいなどのメリットを持つ。

ATカット型は消費電力の大きさがネックになっていたが、省電力化に成功し、この世界最高精度の腕時計が誕生した。研ぎ澄まされた1秒を意識し、時計の本質を追求したシンプルな外装にも、静かな自信がみなぎっている。

●シチズンお客様時計相談室
TEL0120-78-4807
citizen.jp

シンメトリーゆえに映える12時位置のトゥールビヨン ARNOLD & SON

タイム・ピラミッド トゥールビヨン  アーノルド&サン
タイム・ピラミッド トゥールビヨン
手巻き、ケース径44.6㎜、RGケース×アリゲーターストラップ、世界限定28本

18世紀、マリンクロノメーターの開発に大きな足跡を残した英国人時計師ジョン・アーノルドと息子ロジャーによるウォッチメイキングのDNAを受け継ぐブランド、アーノルド&サン。

二人が合作した、レギュレーターと英国の縦型ムーブメントが特徴のスケルトンクロックを着想源とするスケルトンウォッチが「タイム・ピラミッド」である。

シンメトリーな構造が、このタイムピースの特徴で、左右に二つの香箱とパワーリザーブインジケーターを備え、12時位置にテンプ、その真下に時分針、さらにリュウズも6時位置に配された。これをベースに、12時位置にフライングトゥールビヨンを搭載した新作が登場。

二つのサファイアクリスタルの間に浮かんでいるかのようなスケルトン化されたトゥールビヨン機構が、ミステリアスにして優雅な雰囲気を醸し出している。

●アーノルド&サン相談室
TEL0570-03-1764
www.arnoldandson.com

海洋環境保全意識を高めるダイバーズモデル ORIS

オリス クリーンオーシャン リミテッドエディション
オリス クリーンオーシャン リミテッドエディション
自動巻き、ケース径39.5㎜、SSケース×SSブレスレット、世界限定2000本

海洋に廃棄されるプラスチックが、世界的に大きな問題となっている。これに対処するべく、大型河川や河口でプラスチックゴミを回収する装置の開発・設置を進めている海洋環境保全活動組織パシフィック・ガベージ・スクリーニングと、オリスはパートナーシップを締結。

これを記念し、ダイバーズウォッチシリーズの「アクイス」をベースとする限定モデルが登場した。

グラデーションを描くブルーダイヤルや、アクアブルーのセラミック製逆回転防止ベゼルが、海洋の存在を常に意識させてくれるだけでなく、ケースバックには、リサイクルPET製のメダルをセット。

さらに環境に優しい藻類とリサイクルプラスチックで作られたボックスに入って届けられるなど、環境保全意識を高める仕様となっているのが実に興味深い。

●オリスジャパン
TEL03-6260-6876
www.oris.ch

※『Nile’s NILE』2019年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。