
2024年に始まった新NISA制度の影響で、投資への関心が急速に高まりました。しかし、今年1月に原発不明がんで亡くなられた経済アナリスト・森永卓郎さん(享年67)は、新NISAや投資ブームに対して厳しい姿勢を取っていました。「老後が不安だから投資をするのは間違いです。新NISAは、お金をドブに捨てるようなもの」と断言していたのです。
森永さんによれば、資産形成をしなくても、心豊かな老後は十分に可能です。実際に年金生活に入ったご自身や、同世代の知人たちを見てきた中で、多くの人が「資産形成不要でも穏やかに暮らしている」と述べています。
トカイナカ生活でのんびり暮らす人々
老後の生活スタイルは大きく二つに分かれます。一つは都市部で生活を維持するために働き続ける人々、もう一つは「トカイナカ(都会と田舎の中間)」でのんびり暮らす人々です。森永さんは、後者の方が圧倒的に幸福そうだと述べています。
都市部での生活はコストが高く、退職後も働かざるを得ません。しかも、その仕事の多くが「ブルシット・ジョブ」と呼ばれる意味のない仕事ばかりで、精神的にも消耗してしまいます。
一方でトカイナカに移住した人々は、不動産価格の安さ、生活コストの低さ、自給自足的な生活など、多くのメリットを享受しながら、年金と少しの貯蓄で趣味を楽しみ、満ち足りた日々を過ごしているのです。
投資に潜むリスクと「新NISA」への懸念
森永さんは、**投資による資産形成のリスク**を強く指摘しています。特に長期投資には注意が必要で、新NISAの「長期・積立・分散投資を通じた資産形成」という主張は、必ずしも真実とは限らないと批判しています。
例えば、過去に行われたS&P500への10年間の積立投資のシミュレーションでは、確かに損失率は長期投資の方が小さかったものの、実際の損失額は長期投資の方が大きくなったと述べています。
投資がうまくいくためには「バブルの再発」が必要であり、それが起きなければ資産は大きく毀損する可能性があるという点が見逃されがちです。森永さんは、現在の資本主義が終焉を迎えるリスクも含め、**将来的にバブルが再発しない可能性の方が高い**と見ていました。
円高と株価下落の連動リスク
さらに森永さんは、今後「異常な円高」によって日本の輸出企業が大きな打撃を受け、株価が大幅に下落する危険性にも言及しています。IMFの購買力平価によると、1ドル=90.9円が妥当とされており、現在の円安傾向が是正された場合、日経平均株価が3000円台にまで下がる可能性があるとの見立てです。
円高が進むと輸出企業の収益が悪化し、株価の下落につながります。その結果、新NISAで株式に投資している多くの国民が、**一生懸命稼いだ資産を失ってしまう恐れ**があるというのです。
投資は「やめる」のが難しい
投資を「始める」のは比較的容易でも、「やめる」のは非常に難しいという心理的側面も森永さんは強調しています。株価が下がれば「損を確定したくない」と思い、株価が上がれば「もっと儲かるかも」と期待して、売却のタイミングを逃してしまうのです。
森永さん自身も過去に投資判断を誤って大きな損失を被った経験があり、**プロでさえ売り時の判断が難しい投資を、一般の人が的確に行うのは困難**であると述べています。
「堅実な貯蓄」をすすめる理由
2020年頃から森永さんは徐々に株式の処分を進め、2023年にはがんの診断をきっかけに、残っていたドル建ての投資信託もすべて処分しました。主な理由は、自身の死後、遺族に余計な負担をかけないためです。
金融資産は相続の際に、相続税と譲渡益課税の二重課税が発生することが多く、手続きも複雑です。そのため、森永さんは「投資よりも貯蓄として残した方が家族のためにも合理的である」と考えました。
まとめ:投資よりも生活の工夫と堅実な資金管理を
森永さんが一貫して伝えたかったのは、「豊かさ」とは単に資産の多寡で測れるものではないということです。投資で得られるかもしれない利益のために、大きなリスクを取るのではなく、生活スタイルを見直し、無理のない範囲で堅実に暮らすことが老後の幸福につながると提案していました。
新NISAや資産形成の流行に流されるのではなく、自分にとって本当に必要なものが何かを見つめ直すことが、これからの時代にはより重要になってくるのではないでしょうか。
情報源;PRESIDENTオンライン
https://president.jp/articles/-/93970