出版不況に「超豪華な無料雑誌」京都で爆誕のワケ 紙にこだわる大垣書店が勝算見込んだ本屋の未来

京都の書店・大垣書店は、近年出版事業にも積極的に取り組んでいます。もともと書籍の出版を行っていましたが、2024年には批評誌『羅(うすもの)』(1万部配布)を創刊し、さらにタウン誌『KYOTOZINE』(公称3万部)も創刊しました。

『羅』はフリーマガジンでありながら、表紙に薄紙のカバーがかかった豪華な仕様で、手に取った人々を驚かせています。

### 出版不況の中、なぜ紙の雑誌を創刊したのか?

近年、出版市場は縮小傾向にあり、紙媒体の雑誌が次々と休刊しています。2025年1月24日に「新文化オンライン」が報じたところによると、2024年の出版市場規模は3年連続の減少となり、1兆5716億円に縮小しました。また、2023年には64誌が休刊しています。

そのような逆風の中、大垣書店は『羅』の創刊に続き、タウン誌『KYOTOZINE』を発刊しました。背表紙のあるしっかりした作りで、コストや労力を考えると決して容易な挑戦ではありません。なぜこのタイミングで2誌の創刊に踏み切ったのか、大垣書店取締役であり編集長の大垣守可さんに話を聞きました。

### 『KYOTOZINE』創刊の背景

大垣さんは2024年に大垣書店の取締役に就任した30代の若手経営者です。その情熱の背景には、京都のタウン誌『Leaf』の休刊がありました。同誌は2024年2・3月号をもって不定期刊行に移行し、主な情報発信をウェブに移行しました。

「『Leaf』は当店でも雑誌の売り上げ1位を誇っていました。そんな中、元『Leaf』の関係者と話をするうちに、京都にはやはりこうした雑誌が必要ではないか、新たな雑誌を作れないだろうかという話になりました。書店として『Leaf』のような雑誌が日常生活の一部として存在し続ける環境を残したい、という思いが出発点です」

こうして『Leaf』のノウハウを持つスタッフとともに、『KYOTOZINE』の制作が始まりました。京都で長年親しまれてきた大垣書店のネットワークを生かし、新たな雑誌を誕生させたのです。

### 『KYOTOZINE』のコンセプト

『KYOTOZINE』は、京都の生活スタイルを幅広く網羅し、「京都生活のバイブル」になることを目指しています。背表紙をつけたのは、将来的に20号、30号と継続していき、本棚に並べたときに「京都生活全集」のような存在になることを想定しているからです。

一般的にタウン誌は情報の鮮度が重視され、短期間で新しい情報へと切り替わる傾向があります。しかし、『KYOTOZINE』は長期的な視点に立ち、アーカイブ性の高い内容を意識しています。

「書店が作る雑誌は、賞味期限のないものにすべきだと考えています。トレンドを扱う雑誌は、情報量や速度の面でウェブに勝つことが難しい。だからこそ、紙で残す意味がある、長く手元に置いてもらえる雑誌を作るべきだと考えました。それは雑誌というより、本に近いものです」

### 雑誌タイトル『KYOTOZINE』の由来

『KYOTOZINE』というストレートなタイトルも興味深い点です。

「京都の人間がわざわざ『京都』と名付けたものを作ることは、あまりないと思うんですよ(笑)。タイトルを決める際には、『BUBU』も候補に挙がりました。ブブ漬けを連想させるユニークなネーミングで、遊び心のある方向性も考えました。しかし最終的には、『KYOTOZINE』に決定しました」

その理由について、大垣さんは次のように語ります。

「テレビならKBS京都、新聞なら京都新聞、ラジオならαステーションFM京都と、京都の主要メディアには必ず『京都』がついています。大垣書店から出す雑誌も、『京都』と名付けることで、京都の人々の生活に根付くような存在にしたかったのです。半ばインフラのような雑誌を作る、という気持ちですね」

### まとめ

大垣書店は出版不況の中、批評誌『羅』とタウン誌『KYOTOZINE』を創刊し、紙媒体の可能性に挑戦しています。『KYOTOZINE』は、かつて京都の暮らしに密着していた『Leaf』の流れをくみながら、より長期的な視点でアーカイブ性の高い雑誌として発展を目指しています。

単なる情報誌ではなく、京都の文化や生活を記録し、残していくことを目的とした『KYOTOZINE』は、今後も京都の人々にとって欠かせない存在になっていくことでしょう。

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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